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組織

採用担当の研修|工程別の中身と法令・助成金

採用担当の研修|工程別の中身と法令・助成金
鈴木 裕斗監修者

株式会社overflow / 代表取締役 CEO

鈴木 裕斗

株式会社サイバーエージェントに新卒入社。広告営業を経て、Amebaプラットフォームの管轄責任者に就任。その後、スタートアップ企業に入社、代表取締役就任を経て2ヶ月後に株式会社ディー・エヌ・エーにM&A、子会社化。子会社代表取締役とDeNA広告部長を兼任。2017年6月、株式会社overflowを創業。2018年から2020年9月末までエキサイト株式会社の社外取締役を兼任。

採用担当者を育てようと研修を探すと、研修会社の講座がいくつも見つかります。ところが、どれも「採用力を高める」とうたっていて、自社の担当者に何が足りないのかを決めていないと選びきれません。

採用担当の仕事は、求める人物像を決めるところから入社後の立ち上がりまで、工程ごとに求められる力が違います。加えて、選考で聞いてはいけないことや、求人に書かなければならないことといった法令の知識は、経験の長さにかかわらず欠かせない。

研修の中身を工程に沿って並べ、法令の部分は公的な資料で押さえ、最後に効果をどの数字で確かめるかまで決めておく。その順に組み立てていきます。

採用担当の研修は、採用の工程ごとに身につける中身を決める

採用担当者向けの研修は、要件定義・募集・選考・内定から入社までの4つの工程に分け、工程ごとに身につける中身を決めると、講座の候補を比べやすくなります。中央職業能力開発協会のビジネス・キャリア検定試験(2級 人事・人材開発)も、雇用管理の「募集・採用」を「採用の基本と課題」「採用の方法・手続の設計」「各種採用・雇用形態別の留意点、関係法令等」の3項目で構成しています(試験範囲・令和2年4月)。

工程と中身を表にすると、次のようになります。

工程

身につけること

研修で扱う中身の例

要件定義

現場と求める人物像を言葉にそろえる

必須条件と歓迎条件の切り分け、職務内容の書き出し、現場責任者へのヒアリング

募集

候補者に届く求人と接点をつくる

求人票の書き方、労働条件の明示、スカウト文面、採用ページの点検

選考

公正に、同じ物差しで見極める

質問の準備、評価基準のすり合わせ、聞いてはいけない事項、面接官への共有

内定から入社

辞退を防ぎ、入社後につなぐ

条件の提示と説明、内定後の連絡、受け入れ部署への引き継ぎ

自社の課題が要件定義や募集にあるなら、講座の名前ではなくプログラムの中身で、どの工程を扱っているかを確かめてから選ぶ方が確実です。

要件定義の進め方は採用要件の定義と作り方で詳しく整理しています。

着任直後と2年目以降では、厚くする工程が変わる

着任したばかりの採用担当者には、選考と法令の研修を先に受けてもらう方が安全です。候補者と直接やりとりする場面で誤りがあると、会社全体の信頼に響くためです。

担当して1年ほどたち、選考の運営が回るようになってからは、要件定義と募集に重心を移します。応募が集まらない、集まっても要件に合わないといった課題は、選考より前の要件定義や募集の工程に原因がある場合があるからです。

担当者ごとに受ける研修を変えるなら、本人の目標と結びつけておくと、研修後に何が変わったかを確かめやすくなります。目標の立て方は採用担当者の目標設定にまとめました。

募集の研修は、自社の求人と採用ページを教材にする

募集の工程の研修は、一般的な求人票の書き方を学ぶだけで終わらせず、自社がいま出している求人と採用ページを教材にして、候補者からどう見えているかを点検する形にすると、研修の翌日から直す箇所が手元に残ります。

点検の材料として、自社の採用サイトや求人の公開情報が外からどう見えているかを先に測っておく方法があります。Offers のエンジニア採用力チェックは、エンジニア・技術職の採用に特化した評価指標で、企業URLから公開情報を5指標24項目で採点し、原則1営業日以内にレポートをメールで届ける無料のサービスです。採点に使うのは公開情報なので、社内での実際の運用や面接の質は採点の対象外です。技術職を募集している会社が、募集の工程を点検する材料として使ってください。

法令の研修は、公正採用選考と労働条件の明示の2本を必ず入れる

採用担当者の研修で欠かせない法令の中身は、厚生労働省が「採用選考時に配慮すべき事項」として示す「公正な採用選考」と、職業安定法にもとづく募集時の労働条件の明示の2本です。どちらも、担当者の経験が長くても思い込みで誤りやすく、研修で確認しておく価値が高い領域です。

厚生労働省の公正採用選考特設サイトは、担当者のうち一人でも不適切な対応をすれば企業全体の信頼を失いかねないとして、担当者全員が考え方を理解する社内体制を整えるよう求めています(採用選考の具体的な方法)。研修は、その体制づくりの中心になる手段です。

就職差別につながるおそれがある14事項を、質問と応募書類から外す

厚生労働省は、応募者の適性・能力に関係のない事項を応募書類や面接で把握することや、身元調査などを実施することを、就職差別につながるおそれがある事項として、少なくとも14事項を挙げています(これらに限られるわけではないとしています)。研修では、この14事項を質問の例と応募書類の項目に当てはめて点検するのが基本です。

区分

事項

本人に責任のない事項の把握(4事項)

本籍・出生地/家族(職業・続柄・健康・病歴・学歴・収入など)/住宅状況/生活環境・家庭環境

本来自由であるべき事項の把握(7事項)

宗教/支持政党/人生観・生活信条/尊敬する人物/思想/労働組合・学生運動などの社会運動/購読新聞・雑誌・愛読書

採用選考の方法(3事項)

身元調査など/合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断/本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用

出所:厚生労働省 公正採用選考特設サイト「採用選考時に配慮すべき事項」(2026年10月確認)。

令和6年度にハローワークで把握した854件の内訳では、応募者から「本人の適性・能力以外の事項を把握された」と指摘があったもののうち「家族に関すること」の質問が多くを占める、というのが同じページの説明です。面接の空気を和らげるつもりで聞いてしまう例が多いとされており、雑談の切り出し方まで研修で練習しておくと防ぎやすくなります。

面接を担う現場のマネージャーまで研修の対象を広げる場合は、比べ方も変わる。面接官研修の選び方で整理しました。

2024年4月から、求人に業務と就業場所の「変更の範囲」を書く

職業安定法にもとづく募集時の明示事項には、2024年4月から「従事すべき業務の変更の範囲」「就業場所の変更の範囲」「有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)」の3つが加わりました(厚生労働省「募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!」)。求人票を書く採用担当者の研修には、この3つの書き方を入れておくと安心です。

「変更の範囲」は、雇入れ直後だけでなく、将来の配置転換などの見込みも含めた、契約期間中の範囲のことです。同じリーフレットは、業務内容の記載例として「(雇入れ直後)法人営業(変更の範囲)製造業務を除く当社業務全般」を挙げています。

求人を出したまま更新を忘れる失敗も、研修で扱いたいところです。同じリーフレットは、募集情報を提供する場合に、掲載した時点を明示するなどして正確かつ最新の内容に保つ義務があるとしています。

公正採用選考の研修は、労働局とハローワークが開いている

公正な採用選考の考え方を学ぶ研修は、研修会社の講座だけでなく、ハローワークや労働局が定期的に開く研修会でも受けられます。対象は主に、事業所ごとに選任する「公正採用選考人権啓発推進員」です。

厚生労働省の公正採用選考人権啓発推進員制度は、一定規模以上の事業所に、人事担当責任者など採用選考に相当の権限を持つ人の中から推進員を選任してもらう仕組みです。推進員は事業所内の採用選考が公正に行われるための旗振り役で、ハローワークや労働局の研修会などを通じて理解を深めるとされています。職業紹介事業者と派遣元事業主には、従業員規模にかかわらず選任が求められています。

対象となる規模について、岡山労働局のリーフレット(令和8年3月)は、厚生労働省が令和5年4月から従業員数80人以上(令和5年3月までは100人以上)の事業所に推進員の設置を依頼していると説明しています(公正採用選考人権啓発推進員の設置について)。選任したら管轄のハローワークに報告し、その後は研修会への参加が案内されます。

採用担当者がすでに推進員に選ばれているなら、労働局の研修会を法令の研修の柱に据え、研修会社の講座は面接の練習や募集の実務に充てる、という分け方ができます。開催の時期や形式は都道府県ごとに異なるため、管轄の労働局の案内で確かめてください。

研修は外部講座・社内の実務・公的な研修会を組み合わせる

採用担当者の研修は、研修会社の公開講座やeラーニングといった外部の研修、社内で先輩が教える実務の研修(OJT)、労働局などの公的な研修会の3つを、身につける中身に合わせて組み合わせると、抜けと重複を減らせます。

形式

向いている中身

気をつけること

外部の公開講座・eラーニング

面接の進め方、求人票の書き方、採用市場の動き

自社の求人や評価基準には踏み込めない

社内の実務の研修(OJT)

自社の要件定義、評価基準、現場との調整

教える側の時間と力量に左右される

労働局・ハローワークの研修会

公正な採用選考、人権の考え方

開催の時期と形式が地域ごとに異なる

社内だけで育てようとすると、教える人の手が足りなくなりがちです。厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」では、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所が80.1%で、問題点の最多は「指導する人材が不足している」の59.5%でした。

採用担当者が一人か二人の会社では、社内に教える人がいないことも珍しくありません。その場合は、法令と面接の基礎を外部と公的な研修会で押さえ、社内では自社の求人と評価基準を一緒に見直す時間を取る、という配分が現実的です。社内で研修を組むときの講師の要件は研修の内製化で扱っています。

研修の費用は、受講料と助成金の要件を先に確かめて見積もる

採用担当者の研修費を見積もるときは、受講料だけでなく、国の人材開発支援助成金の対象になるかどうかを先に確かめます。対象になれば受講料の一部が戻りますが、時間数や届け出の時期といった要件を外すと受け取れません。

研修費の目安として、厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」は、職場を離れて行う研修(OFF-JT)に支出した費用の労働者一人当たり平均額を2.0万円としています(令和6年度1年間・費用を支出した企業の平均、前回は1.5万円)。

助成金の要件は、厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内」令和8年度版で確かめられます。採用担当者の研修に関係するのは、次の3点です。

  • 対象は職場を離れて行う研修のうち実訓練時間数が10時間以上のもので、経費助成率は45%(中小企業以外は30%)
  • 訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に、計画届を労働局へ出す
  • 社内制度・組織・人事規則に関する説明は、助成の対象にならない

2時間程度の単発のセミナーは、10時間の要件に届きません。助成を見込むなら、複数の講座を1つの訓練として組めるか、届け出の時期に間に合うかを、申し込みの前に確かめておきます。自社の採用ルールの説明を研修に混ぜる場合も、その時間は助成の対象から外れます。形式ごとの実質負担の試算は人事研修の比較で示しました。

研修の効果は、工程ごとの数字と面接の記録で確かめる

採用担当者の研修の効果は、受講後のアンケートではなく、研修で扱った工程の数字が受講の前後でどう動いたかと、面接の記録が評価基準に沿って書かれているかで確かめます。研修を選ぶ前に、どの数字を見るかを決めておくと、講座の中身もその数字に合わせて選べるはずです。

研修で扱った工程

受講の前後で見る数字・記録

要件定義

書類選考の通過率、現場責任者との認識のずれによる差し戻しの件数

募集

求人ごとの応募数、スカウトの返信率

選考

面接の評価記録の記入漏れ、面接官どうしの評価のばらつき、14事項に当たる質問の有無

内定から入社

内定の承諾率、内定から入社までの辞退の件数

数字は1回の研修で大きく動くとは限りません。研修の直後に1回、3か月後にもう1回確かめ、動かなかった工程は研修の中身を見直すか、別の工程に原因がないかを探す。内定後の辞退を減らす打ち手は採用の内定辞退にまとめました。

採用担当の研修を組む手順は4段で進める

採用担当者の研修は、工程の洗い出し、法令の確認、形式と費用の決定、効果の測り方の決定という4段で組むと、講座を選ぶ前に必要な判断がそろいます。

  1. 工程を洗い出す: 要件定義・募集・選考・内定から入社のうち、自社で課題が出ている工程と、担当者が不慣れな工程を書き出す
  2. 法令の中身を確かめる: 公正な採用選考の14事項と、2024年4月に加わった明示事項を、自社の質問例と求人票に当てはめて点検する。推進員を選任しているなら、労働局の研修会の予定を調べる
  3. 形式と費用を決める: 外部の講座・社内の実務の研修・公的な研修会に中身を振り分け、助成金を使うなら時間数と計画届の時期を先に確かめる
  4. 効果の測り方を決める: 工程ごとに見る数字を1つずつ決め、受講前の値を記録してから研修を始める

この4段が埋まってから研修会社の講座一覧を開けば、候補は自社に合う数本まで絞れるはずです。

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