採用担当者を育てようと研修を探すと、研修会社の講座がいくつも見つかります。ところが、どれも「採用力を高める」とうたっていて、自社の担当者に何が足りないのかを決めていないと選びきれません。
採用担当の仕事は、求める人物像を決めるところから入社後の立ち上がりまで、工程ごとに求められる力が違います。加えて、選考で聞いてはいけないことや、求人に書かなければならないことといった法令の知識は、経験の長さにかかわらず欠かせない。
研修の中身を工程に沿って並べ、法令の部分は公的な資料で押さえ、最後に効果をどの数字で確かめるかまで決めておく。その順に組み立てていきます。
採用担当の研修は、採用の工程ごとに身につける中身を決める
採用担当者向けの研修は、要件定義・募集・選考・内定から入社までの4つの工程に分け、工程ごとに身につける中身を決めると、講座の候補を比べやすくなります。中央職業能力開発協会のビジネス・キャリア検定試験(2級 人事・人材開発)も、雇用管理の「募集・採用」を「採用の基本と課題」「採用の方法・手続の設計」「各種採用・雇用形態別の留意点、関係法令等」の3項目で構成しています(試験範囲・令和2年4月)。
工程と中身を表にすると、次のようになります。
工程 | 身につけること | 研修で扱う中身の例 |
|---|---|---|
要件定義 | 現場と求める人物像を言葉にそろえる | 必須条件と歓迎条件の切り分け、職務内容の書き出し、現場責任者へのヒアリング |
募集 | 候補者に届く求人と接点をつくる | 求人票の書き方、労働条件の明示、スカウト文面、採用ページの点検 |
選考 | 公正に、同じ物差しで見極める | 質問の準備、評価基準のすり合わせ、聞いてはいけない事項、面接官への共有 |
内定から入社 | 辞退を防ぎ、入社後につなぐ | 条件の提示と説明、内定後の連絡、受け入れ部署への引き継ぎ |
自社の課題が要件定義や募集にあるなら、講座の名前ではなくプログラムの中身で、どの工程を扱っているかを確かめてから選ぶ方が確実です。
要件定義の進め方は採用要件の定義と作り方で詳しく整理しています。
着任直後と2年目以降では、厚くする工程が変わる
着任したばかりの採用担当者には、選考と法令の研修を先に受けてもらう方が安全です。候補者と直接やりとりする場面で誤りがあると、会社全体の信頼に響くためです。
担当して1年ほどたち、選考の運営が回るようになってからは、要件定義と募集に重心を移します。応募が集まらない、集まっても要件に合わないといった課題は、選考より前の要件定義や募集の工程に原因がある場合があるからです。
担当者ごとに受ける研修を変えるなら、本人の目標と結びつけておくと、研修後に何が変わったかを確かめやすくなります。目標の立て方は採用担当者の目標設定にまとめました。
募集の研修は、自社の求人と採用ページを教材にする
募集の工程の研修は、一般的な求人票の書き方を学ぶだけで終わらせず、自社がいま出している求人と採用ページを教材にして、候補者からどう見えているかを点検する形にすると、研修の翌日から直す箇所が手元に残ります。
点検の材料として、自社の採用サイトや求人の公開情報が外からどう見えているかを先に測っておく方法があります。Offers のエンジニア採用力チェックは、エンジニア・技術職の採用に特化した評価指標で、企業URLから公開情報を5指標24項目で採点し、原則1営業日以内にレポートをメールで届ける無料のサービスです。採点に使うのは公開情報なので、社内での実際の運用や面接の質は採点の対象外です。技術職を募集している会社が、募集の工程を点検する材料として使ってください。
法令の研修は、公正採用選考と労働条件の明示の2本を必ず入れる
採用担当者の研修で欠かせない法令の中身は、厚生労働省が「採用選考時に配慮すべき事項」として示す「公正な採用選考」と、職業安定法にもとづく募集時の労働条件の明示の2本です。どちらも、担当者の経験が長くても思い込みで誤りやすく、研修で確認しておく価値が高い領域です。
厚生労働省の公正採用選考特設サイトは、担当者のうち一人でも不適切な対応をすれば企業全体の信頼を失いかねないとして、担当者全員が考え方を理解する社内体制を整えるよう求めています(採用選考の具体的な方法)。研修は、その体制づくりの中心になる手段です。
就職差別につながるおそれがある14事項を、質問と応募書類から外す
厚生労働省は、応募者の適性・能力に関係のない事項を応募書類や面接で把握することや、身元調査などを実施することを、就職差別につながるおそれがある事項として、少なくとも14事項を挙げています(これらに限られるわけではないとしています)。研修では、この14事項を質問の例と応募書類の項目に当てはめて点検するのが基本です。
区分 | 事項 |
|---|---|
本人に責任のない事項の把握(4事項) | 本籍・出生地/家族(職業・続柄・健康・病歴・学歴・収入など)/住宅状況/生活環境・家庭環境 |
本来自由であるべき事項の把握(7事項) | 宗教/支持政党/人生観・生活信条/尊敬する人物/思想/労働組合・学生運動などの社会運動/購読新聞・雑誌・愛読書 |
採用選考の方法(3事項) | 身元調査など/合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断/本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用 |
出所:厚生労働省 公正採用選考特設サイト「採用選考時に配慮すべき事項」(2026年10月確認)。
令和6年度にハローワークで把握した854件の内訳では、応募者から「本人の適性・能力以外の事項を把握された」と指摘があったもののうち「家族に関すること」の質問が多くを占める、というのが同じページの説明です。面接の空気を和らげるつもりで聞いてしまう例が多いとされており、雑談の切り出し方まで研修で練習しておくと防ぎやすくなります。
面接を担う現場のマネージャーまで研修の対象を広げる場合は、比べ方も変わる。面接官研修の選び方で整理しました。
2024年4月から、求人に業務と就業場所の「変更の範囲」を書く
職業安定法にもとづく募集時の明示事項には、2024年4月から「従事すべき業務の変更の範囲」「就業場所の変更の範囲」「有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)」の3つが加わりました(厚生労働省「募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!」)。求人票を書く採用担当者の研修には、この3つの書き方を入れておくと安心です。
「変更の範囲」は、雇入れ直後だけでなく、将来の配置転換などの見込みも含めた、契約期間中の範囲のことです。同じリーフレットは、業務内容の記載例として「(雇入れ直後)法人営業(変更の範囲)製造業務を除く当社業務全般」を挙げています。
求人を出したまま更新を忘れる失敗も、研修で扱いたいところです。同じリーフレットは、募集情報を提供する場合に、掲載した時点を明示するなどして正確かつ最新の内容に保つ義務があるとしています。






