人事機能は人の採用から処遇・労務までで事業計画を支える役割
人事機能とは、企業が事業計画を実行するのに必要な人材を確保し、配置し、育成し、評価と賃金で処遇し、法令に沿って働く環境を整える一連の働きを指します。採用だけ、給与計算だけを指す言葉ではなく、入社から退職までの人の流れと、それを支える制度と労務の全体を含む言葉です。人事部という部署が無い会社でも、経営者や管理部門の担当者がこの働きを受け持っています。
範囲を確かめる手がかりになるのが、中央職業能力開発協会が実施するビジネス・キャリア検定の試験範囲です。「人事・人材開発」2級の試験範囲は、人事企画・雇用管理・賃金管理・人材開発の4分野に、人事・人材開発をめぐる社会的動向を加えた構成になっています。「労務管理」2級の構成は、労使関係・就業管理・労働安全衛生と福利厚生・労務管理に関係するその他の重要な法律の4分野です。
この2つを合わせると、人事機能は次の6つの領域に整理できます。
領域 | 主な仕事 | 試験範囲の対応 |
|---|
人事企画 | 等級・評価・職務評価の仕組みづくり、組織と人の理解 | 人事・人材開発 Ⅰ 人事企画 |
雇用管理 | 人員計画、募集・採用、配置・異動・昇進、出向、退職、雇用調整 | 人事・人材開発 Ⅱ 雇用管理 |
賃金管理 | 賃金制度の設計と運用、総額人件費の管理、退職給付 | 人事・人材開発 Ⅲ 賃金管理 |
人材開発 | 人材開発計画の立案、OJT(職場内教育)、Off-JT(職場外教育)、自己啓発支援 | 人事・人材開発 Ⅳ 人材開発 |
就業管理と労使関係 | 労働時間・休日・休暇の管理、就業規則、労使の話し合い | 労務管理 Ⅰ 労使関係・Ⅱ 就業管理 |
安全衛生と福利厚生 | 健康管理と職場の安全、福利厚生制度の運用 | 労務管理 Ⅲ 労働安全衛生・福利厚生 |
出所:中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験 試験範囲 2級 人事・人材開発」(令和2年4月)・「同 2級 労務管理」(令和4年10月)をもとに編集部で整理。
6つの領域は担当者の数とは別の話です。従業員が数十人の会社では1人が全領域を受け持つこともあり、数千人の会社では領域ごとに課を分けることもあります。人事機能が企業の成長に欠かせないのは、事業計画が「いつまでに、どの役割の人が、何人いるか」を前提に組まれているからです。6領域のどこかが空いていれば、計画のどこかが人の面で止まります。
人事機能の仕事内容は6つの領域ごとに中身が違う
人事機能の仕事内容は、6つの領域ごとに扱う対象と時間の単位が違います。人事企画と賃金管理は年単位で仕組みを決め、雇用管理と人材開発は期ごとに人を動かし、就業管理と安全衛生は毎月・毎日の運用を回す仕事です。担当を割り振るときは、この時間の単位の違いを踏まえると、締め切りのある運用が仕組みづくりの仕事に押しのけられません。
人事企画は等級・評価の仕組みと組織の枠組みを決める仕事
人事企画は、社員をどの等級に置き、何で評価し、それをどう処遇へつなぐかという人事制度の骨組みを決める仕事です。試験範囲では、職群・資格制度、人事評価、職務分析・職務評価、モチベーションとモラールの向上・企業文化改革がこの分野に入っています。
制度は一度つくると数年は動かさないため、事業の方向が変わったときに制度とのずれが出やすい領域です。人事企画の進め方は人事企画の役割と進め方、要員の枠組みを含む全体像は人事計画とは?構成する6つの計画と立て方が扱っています。
雇用管理は採用から配置・異動・退職までの人の出入りを扱う仕事
雇用管理は、人員計画に沿って人を募集・採用し、配置・異動・昇進で動かし、出向・退職・雇用調整までを扱う仕事です。人の出入りそのものを扱うので、6つの領域のうち事業部門との接点がもっとも多くなります。
採用では、求める人物像を配属先と合わせ、募集の手段を選び、選考と内定後のフォローまでを回すのが基本の流れです。中途採用では、採用ページや求人票が候補者との最初の接点になることもあるため、外からどう見えているかを定期的に確かめておくことが、母集団の段階での取りこぼしを防ぐ近道です。
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賃金管理は給与の決め方と総額人件費を扱う仕事
賃金管理は、賃金制度を設計して運用し、会社全体の人件費を予算の中に収める仕事です。試験範囲では、賃金・総額人件費管理、賃金制度の設計と運用、退職給付制度、海外駐在員の賃金管理がこの分野に入ります。
毎月の給与計算は運用の部分で、賃金管理の中心は「どの基準で、いくら払うか」を決めることにあります。上場会社などのうち3月決算の会社では、2026年3月期から有価証券報告書に従業員給与等の決定方針と平均給与の対前年比増減率を書くことになり、給与の決め方そのものが社外に説明する対象になりました(詳しくは後述の表)。
人材開発は研修の計画とOJT・Off-JT・自己啓発支援を組み合わせる仕事
人材開発は、経営方針に沿って人材開発の計画を立て、職場で教えるOJT(On-the-Job Training)、職場を離れて学ぶOff-JT(Off-the-Job Training)、本人の学びを支える自己啓発支援を組み合わせる仕事です。研修を開くこと自体よりも、どの役割の人に、いつまでに、何ができる状態になってほしいかを先に決めるのが中心になります。
評価の結果と育成の計画がつながっていないと、研修は受講の記録だけが残るものになりがちです。人事企画と人材開発を別の担当が持つ会社では、評価の項目と研修の狙いを同じ言葉で書いておくと、両者のずれが小さくなります。
就業管理・労使関係は労働時間と就業規則と労使の話し合いを扱う仕事
就業管理と労使関係は、労働時間・休日・休暇を管理し、就業規則を整え、労働組合や労働者の代表との話し合いを受け持つ仕事です。毎月の勤怠の締めと給与への反映は、この領域と賃金管理の境目にあります。
就業規則の作成と届出は、常時10人以上の労働者を使用する使用者の義務で、変更したときも同じ扱いです(労働基準法第89条)。この10人は事業場ごとに数えます(厚生労働省 長崎労働局「労働法の基礎講座 第4回」)。制度を変えるたびに規則の改定が要るため、人事企画で決めた内容をこの領域で文書に落とす流れになります。
安全衛生・福利厚生は健康と職場の安全、制度の運用を扱う仕事
安全衛生と福利厚生は、従業員の健康管理と職場の安全を保ち、福利厚生の制度を運用する仕事です。健康診断の実施と事後の対応、衛生管理者や産業医との連携、休職と復職の手続きなどが入ります。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、衛生管理者と産業医の選任が必要です(労働安全衛生法施行令第4条・第5条)。この基準は会社全体ではなく事業場ごとに数えるため、拠点が分かれている会社は拠点ごとの人数を確かめておく必要があります。
人事と総務・労務の線引きは扱う対象で分け、会社ごとに決める
人事部と総務部は、扱う対象で分けると境界が分かりやすくなります。人事は人の採用・配置・育成・処遇を扱い、総務は設備・備品・文書管理・社内行事など会社の運営を支える仕事が対象です。労務は、6つの領域のうち就業管理・労使関係と安全衛生・福利厚生に該当し、人事部の中の課として置く会社もあれば、総務部が持つ会社もあります。
どの部署がどこまでを持つかは、会社ごとの決め方に委ねられています。迷いやすいのは、社会保険の手続き、健康診断の手配、入退社時の備品の準備といった、人と会社の運営の両方にまたがる仕事です。部署の名前ではなく業務ごとに担当を一覧にしておくのが、担当者が替わったときに抜けを出さない方法です。
従業員数の区切りごとに人事の法定業務が増える
人事の法定業務は、従業員数がある区切りを超えるたびに増えます。常時10人以上の事業場で就業規則の作成・届出、常時50人以上の事業場で衛生管理者と産業医の選任、37.5人以上で障害者の雇用率の達成と報告が人事の仕事に加わります。101人以上では女性活躍推進法の行動計画と情報公表、300人超では男性の育児休業等取得率の公表が必要で、有価証券報告書を出す会社に求められるのが人材戦略と給与に関する記載です。
出所:各法令の条文(e-Gov法令検索)と厚生労働省・金融庁の公表資料をもとに編集部で作成(2026年10月18日確認)。
注意したいのは、人数の数え方が法律ごとに違う点です。労働基準法の就業規則と労働安全衛生法施行令の基準は「事業場」ごとに数え、女性活躍推進法と育児・介護休業法の基準は企業の従業員数で数えます。会社全体では50人を超えていても、拠点ごとに見れば50人に届かない、ということが起こります。
2025年から2026年にかけて4つの基準が動いた
表のうち4つの基準は、2025年4月から2026年7月までの間に変わりました。旧い資料のままでは、対象に入ったことに気づかない会社が出ます。
- 育児休業等の取得率の公表:2025年4月から、公表義務の対象が従業員数1,000人超の企業から300人超の企業に広がりました。公表するのは男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」で、公表前事業年度の終了後おおむね3か月以内に、インターネットなど一般の人が見られる方法で出します
- 有価証券報告書の人的資本開示:金融庁は2026年2月20日に開示府令等の改正を公布・施行し、連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略、それを踏まえた従業員給与等の決定方針、提出会社の従業員の平均給与の対前年比増減率の開示を求めました。2026年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書等から適用されます
- 女性活躍推進法の情報公表:2026年4月1日施行の改正で、男女間賃金差異の公表義務が従業員数301人以上から101人以上の企業に広がり、女性管理職比率も101人以上の企業に新たに義務付けられました。101〜300人の企業は3項目以上、301人以上の企業は4項目以上を公表します。初回は、施行後に最初に終わる事業年度の実績を、次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表します
- 障害者の法定雇用率:2026年7月から、民間企業の法定雇用率が2.5%から2.7%に上がり、対象事業主の範囲が40.0人以上から37.5人以上に広がりました。2026年6月1日時点の報告では、2.5%での不足の有無などを確かめる扱いでした
有価証券報告書の改正が人事に何を求めるかは、人事戦略とは?経営と連動させる立て方と開示制度が詳しく扱っています。
人事の担当者が少ない会社ほど、こうした区切りを、採用が続いた結果として気づかないうちに越えているものです。次の区切りまであと何人かを人員計画の表に1行足しておくと、初回の届出や公表の準備を前もって始められます。
経営戦略とつなぐ人事機能は3つの持ち場に分けて組み立てる
経済産業省の『人材版伊藤レポート2.0』(2022年5月)は、経営人材の育成や企業文化の浸透などの全社レベルの人事施策を、人事部門が行うべきものとする立場です。これに対して外部からの採用や部門内の再配置については、「事業部門が責任を負うものであり、人事部門はこれを支援する」と書いています。
人事部門の体制については、事業担当人事社員(HRBP)の設置と、全社レベルで行う人事施策を担うポジションや勤怠管理・給与計算などの業務を集中的に行うポジションに求められる役割の見直しを、別々の工夫として挙げています。本稿では、報告書が挙げるこの3つのポジションをもとに、人事部門の持ち場を3つに整理しました。
持ち場 | 受け持つこと | 6つの領域との対応(編集部の整理) |
|---|
事業担当の人事(HRBP) | 各事業の採用・配置・育成の運用を、事業を理解したうえで支える | 雇用管理・人材開発のうち事業ごとの運用 |
全社の人事施策 | 経営人材の育成、企業文化の浸透など全社レベルの人事施策 | 人事企画、人材開発のうち全社の施策 |
集中処理 | 勤怠管理・給与計算などの定型の業務 | 就業管理・賃金管理のうち毎月の運用 |
出所:経済産業省『人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~』(令和4年5月)をもとに編集部で作成。
同じ報告書は、事業部門の経験を持つ人事部門の社員を平時から育てることと、事業部門と人事部門の間の相互の異動も挙げています。事業担当の人事は、事業の言葉で採用や配置の相談に乗れることが前提になるためです。HRBP の役割はHRBPの役割とは?従来の人事との違いと企業事例を解説で詳しく扱っています。
少人数の人事部門は集中処理と法定業務を先に固める
人事の担当者が1〜2人の会社では、3つの持ち場を同じ人が兼ねることになります。その場合は、締め切りのある集中処理(勤怠の締め・給与計算・社会保険の手続き)と法定業務を先に固め、手順書と外部の専門家への委託で回る状態にしてから、事業担当として採用や配置の相談に時間を割く順番が現実的です。
給与計算や社会保険の手続きは、社会保険労務士への委託や給与計算のサービスで外に出しやすい業務です。一方で、どの事業にどんな人が何人要るかを事業部門と詰める仕事は外に出しにくく、担当者の時間を空けておく価値が高い部分になります。
人事機能に必要なスキルは受け持つ領域で変わる
人事機能に必要なスキルは、受け持つ領域によって比重が変わります。どの領域にも共通して要るのは、労働法令の知識、数字を集計して説明する力、事業を理解する力、人と人の間を調整する力、評価や給与や健康に関わる情報を扱う慎重さの5つです。
スキル | 主に使う場面 |
|---|
労働法令の知識 | 就業規則の作成と変更、労働時間の管理、安全衛生の体制づくり、各種の報告と公表 |
数字を集計して説明する力 | 総額人件費の管理、男女間賃金差異や育児休業等の取得率の算出、有価証券報告書の平均給与の増減率 |
事業を理解する力 | 事業担当の人事として、事業部門の採用・配置・育成の相談に乗る |
調整する力 | 採用での配属先とのすり合わせ、評価のフィードバック、労使の話し合い、異動の打診 |
情報を扱う慎重さ | 評価・給与・健康診断の結果・休職の記録など、本人に関わる情報の管理 |
なかでも、ここ数年で比重が増したのが数字を集計して説明する力です。前の章の表のとおり、男女間賃金差異・女性管理職比率・育児休業等の取得率・平均給与の増減率は、いずれも社内のデータから算出して社外へ出す数字になりました。算出の方法と元のデータの置き場を決めておくことが、そのまま公表の正確さにつながります。
法令の知識は、すべてを担当者が抱える必要はありません。社会保険労務士や弁護士に相談できる窓口を持っておき、担当者は「どの場面で、どの法律が関わるか」を見分けられる状態にしておくと、少人数の人事でも判断を誤りにくくなります。
人事機能の見直しは6領域の空きと次の法定の区切りから
自社の人事機能を見直すときに確かめたいのは、6つの領域のどこが空いているかと、次の法定の区切りまで何人かの2点です。空いている領域があれば担当を決め、区切りが近ければ届出や公表の準備を先に始めます。
- 人事機能は、人事企画・雇用管理・賃金管理・人材開発・就業管理と労使関係・安全衛生と福利厚生の6つの領域で整理できる
- 法定業務は常時10人以上の事業場、50人以上の事業場、37.5人以上、101人以上、300人超、有価証券報告書の提出会社という区切りで増え、2025年から2026年にかけて4つの基準が動いた
- 経営戦略とつなぐには、事業担当の人事・全社の人事施策・集中処理の3つの持ち場に分け、少人数なら集中処理と法定業務を先に固める
担当者の数が増えても、6つの領域と3つの持ち場のどこに人を置くかを決めておけば、人事部門の受け持ちが事業の成長に追いつかないまま広がる事態を避けられます。