ハイクラス採用は、経営幹部や部門の責任者、高度な専門職といった事業の中核を担う人材を、相応の年収を提示して中途採用することを指す呼び方です。
「ハイクラス」という言葉には決まった基準がなく、転職サービスごとに目安が違います。自社がどんな役割を任せたいのかを決めないまま募集を始めると、提示年収も採用手法も定まりません。
役割と期待成果を決め、年収の相場から提示額の下限と上限を置き、候補者に届く経路を選ぶ。ハイクラス採用の基本はこの順番です。公的統計と Offers の求人データをもとに、定義から内定前の合意までを整理しました。
ハイクラス採用の定義と対象になる人材
ハイクラス採用とは、経営や事業の成果を左右する管理職・専門職を、一般の中途採用より高い年収を提示して採用することです。法令や公的統計で定められた区分ではなく、転職サービスの解説では年収800万円以上や管理職の経験を目安に挙げる例がよく見られます。
対象になる人材は、任せる役割で大きく4つに分けられます。
区分 | 役職・職種の例 | 任せる役割 |
|---|
経営幹部 | CxO(CTO・CFOなど)、執行役員 | 経営判断と全社の方針づくり |
部門・事業の責任者 | 事業部長、部長、事業責任者 | 部門の業績と組織づくり |
管理職 | 課長、エンジニアリングマネージャー | チームの成果と人材の育成 |
高度専門職 | テックリード、特定領域のスペシャリスト | 技術や専門領域での判断と実行 |
表は編集部の整理です。
年収800万円を超える給与所得者は全体の12.0%
年収800万円を目安にすると、ハイクラス人材は給与所得者全体の1割強にあたります。国税庁の「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者5,137万人のうち、年間の給与が800万円を超える人は12.0%、1,000万円を超える人は6.2%でした(第16表の構成割合をOffersが合算)。
もともと人数の少ない層から、自社の役割に合う経験を持つ人を探すことになります。求人を出して応募を待つだけでは出会いにくいのは、母集団の小ささが一因です。
自社にとってのハイクラスは役割と期待成果で決める
自社が採用したいハイクラス人材は、年収の水準ではなく、任せる役割と期待する成果から決めます。同じ「事業責任者」でも、新規事業の立ち上げと既存事業の拡大では必要な経験が違うためです。
決めておくことは次の4つです。
- 任せる役割(何の責任を持つのか)
- 期待する成果と、成果を出すまでの期間
- 与える権限(予算・人事・意思決定の範囲)
- 社内の人材の昇格や育成で埋められない理由
最後の項目は見落とされがちですが、社内の昇格で埋められる役割なら、外部から高い年収で迎える必要はありません。外から迎える理由がはっきりしているほど、候補者への説明にも一貫性が出ます。
ハイクラス人材の年収相場と求人の年収帯
情報通信業の部長級の年収は、月の給与と賞与から換算すると1,212.6万円、課長級は959.2万円です。厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査」の役職別の集計(企業規模10人以上・雇用期間の定め無し)から算出しました。
役職 | 平均年齢 | きまって支給する現金給与額(月額) | 年間賞与その他特別給与額 | 年収換算 |
|---|
部長級 | 51.1歳 | 72.93万円 | 337.47万円 | 1,212.6万円 |
課長級 | 48.4歳 | 59.20万円 | 248.82万円 | 959.2万円 |
係長級 | 43.0歳 | 47.55万円 | 177.22万円 | 747.8万円 |
出所:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」役職第1表(G 情報通信業・男女計)をもとにOffers算出(年収換算は月額×12+年間賞与)。
部長級と課長級の年収換算は、いずれも800万円を上回ります。管理職をハイクラス採用で迎えるときの提示額は、社内の同じ役職の年収とこの相場の両方を見て決めるのが基本です。
IT・Web 職中心の求人の年収帯は下限で見ると800万円以上が1割ほど
エンジニアやデザイナーなど IT・Web 職を中心とする Offers の正社員求人では、年収の上限が800万円以上の求人が72.3%ある一方、下限が800万円以上の求人は11.4%でした(Offers(株式会社overflow)調べ・年収の下限と上限を記載した正社員求人 n=2,419・2022年3月〜2026年9月公開)。
「年収800万円以上」を上限で数えるか下限で数えるかで、当てはまる求人の割合は6倍以上変わります。
求人の区分 | 下限の中央値 | 上限の中央値 | 上限800万円以上 | 下限800万円以上 |
|---|
全体(n=2,419) | 540万円 | 900万円 | 72.3% | 11.4% |
タイトルにテックリード・リーダー・EM・部長・CTOなどの役割の語を含む求人(n=336) | 700万円 | 1,000万円 | 91.7% | 31.3% |
上記以外の求人(n=2,083) | 500万円 | 900万円 | 69.2% | 8.2% |
役割の語を含む求人は、テックリードやリーダーの求人が中心です。
タイトルに役割の語を含む求人でも、下限が800万円以上の求人は3割ほどで、上限で数えたときとの開きが大きく出ます。
ハイクラス層に向けて求人を出すなら、上限だけでなく下限をどこに置くかを決めておきます。上限が800万円に届く求人は7割を超えるため、上限の高さだけでは他社の求人と差がつきにくいからです。エンジニアの管理職・リード職に絞った報酬の考え方は、ハイレイヤーエンジニアを正社員で採用する方法と口説き方で詳しく扱っています。
ハイクラス採用が難しい3つの理由
ハイクラス採用が難しいのは、対象になる人が少ないこと、候補者が現職で責任を担いながら転職を考えること、1人あたりの採用費用が高いことの3つが重なるためです。
対象になる人が少ない
年収800万円を超える給与所得者は全体の12.0%で(国税庁・前掲)、そこから業界・職種・役割の経験が合う人に絞ると、候補者はさらに限られます。求人の公開だけに頼らず、企業から声をかける経路を組み合わせるのはこのためです。
候補者が現職で責任を担いながら転職を考える
ハイクラスの候補者は、今の職場で責任のある役割を担いながら転職を考えることになります。自分から求人を探して応募するとは限らないため、応募を待つ手法だけで出会えるのは、その一部です。
選考の日程は現職の業務の合間に組むため、面接の回数が多い選考や、結果が出るまで時間のかかる選考は、候補者の負担になります。
1人あたりの採用費用が高い
人材紹介の手数料は年収に対する割合(手数料率)で示されるため、年収の高いハイクラス採用では1件あたりの金額も大きくなります。厚生労働省の集計でも、管理職や経営の専門職を扱う紹介の手数料率の実績は、全職種の平均を上回る結果でした。
職種(主な取扱職種) | 平均手数料率実績 |
|---|
全職種 | 24.0% |
法人・団体管理職員 | 33.9% |
経営・金融・保険の専門的職業 | 34.6% |
情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発) | 31.2% |
出所:厚生労働省「職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について」(令和6年度の実績)。
表の値は、職業紹介事業者の事業所ごとの実績を単純に平均したものです。仮に年収1,000万円の人を手数料率33.9%で採用すると、手数料は339万円になります(Offers試算)。紹介の費用の内訳と職種別の実額は、人材紹介の費用、職種別の1件あたり実額と課金モデルにまとめています。
ハイクラス採用を進める5つの手順
ハイクラス採用を進める手順は、役割の文書化、年収の設計、経路の選択と公開情報の整備、経営陣が加わる選考、内定前の合意の5つです。手順が前後すると、提示年収や選考の途中で社内の判断がぶれやすくなります。
1. 任せる役割と期待成果を文書にする
最初の手順は、採用する人に任せる役割、期待する成果、与える権限を文書にまとめることです。定義の節で挙げた4つの項目を、経営者と採用担当者、配属先の責任者の三者で合わせておきます。
求人票には役職名だけでなく、入社後に取り組む課題と権限の範囲を書きます。「部長候補」とだけ書いた求人では、候補者は自分の経験が合うかを判断できません。
2. 年収の下限と上限を相場と社内の等級から決める
提示年収は、公的統計や求人の相場と、社内の同じ役職の報酬の両方から決めます。相場だけで決めると既存の社員との差が大きくなり、社内の等級だけで決めると候補者の現在の年収に届かないことがあります。
Offers の求人データでは、上限が800万円以上の求人が7割を超える一方、下限が800万円以上の求人は1割ほどでした。候補者に採用への本気度を伝えるには、下限を役割に見合う水準に置き、上限まで上がる条件(成果や役割の広がり)を説明できるようにしておきます。
3. 経路を選び、候補者が調べる公開情報を整える
経路は、次の節で比べる4つの手法から、役割の希少さと社内の工数に合わせて2つ程度を組み合わせるのが現実的です。あわせて、候補者が面談の前に調べる自社の公開情報(採用ページ、技術ブログ、経営陣の発信など)を整えておきます。スカウトや紹介で声をかけても、候補者が調べた先の情報が古いままでは、返事をもらう前に関心を失われるおそれもあるからです。
エンジニアを採用する企業なら、自社の公開情報が候補者からどう見えるかを Offers の「エンジニア採用力チェック」で確かめられます。企業URLを入力すると、公開情報を5指標24項目で採点したレポートが、原則1営業日以内にメールで届く無料のサービスです。
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4. 経営陣が初回から会い、見極めと口説きを並行する
ハイクラス採用の選考では、経営者や役員が初回か早い段階から面談に加わります。候補者にとって、一緒に働く経営陣の考え方と任される権限は、入社を決める大きな材料になるからです。
面接は合否を決める場であると同時に、自社の課題と期待を伝えて口説く場でもあります。面接の回数を絞り、各回で何を確かめるかを面接官どうしで分けておくと、選考の期間を短くできます。
5. 内定前に役割・権限・評価を文書で合わせる
内定を出す前に文書ですり合わせるのは、入社後の役割、権限、評価の方法、年収の見直しの時期の4点です。ハイクラス採用で入社後に起こりうる行き違いは、「任されると思っていた権限が無かった」「成果の測り方が違った」といった期待のずれです。
オファー面談でこれらを説明し、候補者の疑問に答えてから内定を出すと、候補者も承諾を判断しやすくなります。
ハイクラス採用の主な手法と使い分け
ハイクラス採用の手法は、人材紹介、ヘッドハンティング(エグゼクティブサーチ)、ダイレクトリクルーティング(スカウト)、リファラル採用の4つが中心です。候補者が転職を考え始めているかどうかと、社内でどこまで工数をかけられるかで使い分けます。
手法 | 向いている場面 | 費用の形 | 社内の工数 |
|---|
人材紹介 | 転職を考え始めた候補者に、要件を絞って会いたい | 入社時の成功報酬(年収に対する手数料率) | 少ない(候補者探しを任せられる) |
ヘッドハンティング | 経営幹部など、転職を考えていない人にも当たりたい | 着手金と成功報酬を組み合わせる形がある | 中程度(要件のすり合わせに時間を使う) |
ダイレクトリクルーティング | 自社で候補者を探し、直接口説きたい | データベースの利用料や成功報酬(サービスで異なる) | 多い(検索・文面・面談を自社で行う) |
リファラル採用 | 社員の人脈に、役割に合う人がいる | 社員への紹介報酬など(自社で決める) | 中程度(社員への依頼と制度づくり) |
表は編集部の整理です。
経営幹部のように候補者の数がごく少ない役割では、ヘッドハンティングで外部の探索力を借りる方法があります。仕組みと会社の選び方はヘッドハンティングとは?仕組み・費用と会社の選び方で解説しました。
管理職や高度専門職で、自社の言葉で事業と役割を伝えたい場合は、ダイレクトリクルーティングと人材紹介を並べて使うと、転職を考え始めた層と、まだ考えていない層の両方に届きます。スカウトとヘッドハンティングの費用の違いはスカウトとヘッドハンティングの違い、費用と使い分けで比べています。
ハイクラス採用でつまずきやすい3つの点
ハイクラス採用でつまずきやすいのは、肩書きで要件を決めること、社内の報酬との整合を後回しにすること、入社後に権限を渡さないことの3つです。
1つ目は、肩書きで要件を決めることです。前職の役職名が同じでも、率いた組織の規模や任された範囲は会社ごとに違います。役職名ではなく、何を任され、何を成し遂げたかで見極めます。
2つ目は、社内の報酬との整合を後回しにすることです。高い年収で迎えたあとに社内の等級と合わないことが分かると、既存の社員の納得感が下がります。年収を決める段階で、人事制度上の扱いも決めておきましょう。
3つ目は、入社後に権限を渡さないことです。期待した成果が出ない原因が、本人の力ではなく、権限や情報が渡されていないことにある場合もあります。入社後の最初の数か月は、経営陣が定期的に面談して進み具合と障害を確かめます。