ハイレイヤーエンジニアの定義と、採用が難しい3つの理由
ハイレイヤーエンジニアは、テックリード・エンジニアリングマネージャー(EM)・VPoE・CTO のように、技術の意思決定やエンジニア組織の運営に責任を持つ層を指します。正社員の中途採用でこの層の採用が難しい理由は、エンジニア職の求人が求職者を上回っていること、転職を急いでいない人が多いこと、報酬の基準が職種の分布の上側にあることの3つです。
エンジニア職の有効求人倍率は1.48倍で、職業全体の1.17倍を上回る
厚生労働省『一般職業紹介状況(令和8年8月分)』の参考統計表7-2(常用・パートを除く・全国計)では、情報処理・通信技術者の有効求人倍率は1.48倍で、職業計の1.17倍を上回りました。新規求人倍率は3.13倍です。
ハローワークに出された求人と求職を数えた値で、ハイレイヤーだけを切り出した値ではありません。それでも、エンジニア職全体で企業側の求人が求職者を上回っていることは読み取れます。経験の長い人材を求めるほど、同じ候補者に複数の会社が声をかける状況になります。
Offers 登録者の78.9%は「今は考えていない」か「良いオファーがあれば検討」
Offers 登録者データ(株式会社overflow・2026年9月時点・n=31,649)では、登録者が選んだ転職意向は「今は考えていない」が47.5%、「良いオファーがあれば検討」が31.4%で、合わせて78.9%でした。「すぐ転職したい」は10.8%にとどまります。
登録者全体の値で、ハイレイヤーに絞った集計ではありません。それでも、求人票を出して応募を待つ方法では、転職を急いでいない約8割の層には求人がまず届きません。ハイレイヤーの採用は、企業から声をかけて関係をつくるところから始まります。
報酬の基準は職種の分布の上側にある
厚生労働省『令和7年賃金構造基本統計調査』職種(小分類)第17表(男女計・企業規模10人以上)では、システムコンサルタント・設計者の所定内給与額(月額)の中位数が445.5千円、上位10%の境目となる第9・十分位数が831.2千円でした。所定内給与額は、賞与と残業代を含まない毎月の決まった給与です。
職種 | 第1・十分位数 | 第1・四分位数 | 中位数 | 第3・四分位数 | 第9・十分位数 |
|---|
システムコンサルタント・設計者 | 280.7 | 344.1 | 445.5 | 623.7 | 831.2 |
ソフトウェア作成者 | 243.4 | 273.7 | 329.5 | 403.4 | 508.8 |
出典:厚生労働省『令和7年賃金構造基本統計調査』職種(小分類)第17表(所定内給与額・月額・単位は千円)。
同じ職種の中でも、中位数と第9・十分位数の間には大きな開きがあります。技術の意思決定や組織運営を担うハイレイヤーの候補者に、職種の平均や中位数を基準にした年収を提示すると、現職の報酬を下回るおそれが出てきます。提示額の基準は分布の上側です。面談で現職の報酬と期待を確かめてから、提示の幅を決めます。スカウトで提示する年収の決め方と上げ幅は「スカウトの提示年収の決め方と上げ幅の実勢」で扱っています。
出会う経路は、転職を急いでいない層に企業から届く3つ
ハイレイヤーのエンジニアと正社員の中途採用で出会う経路は、企業が候補者に直接声をかけるスカウト(ダイレクトリクルーティング)、社員の人脈を使うリファラル採用、外部の専門家に候補者探しを任せるヘッドハンティングの3つが中心です。求人広告や人材紹介は、主に転職活動を始めた人に届く経路なので、ハイレイヤーの採用では補助の位置に置きます。
経路 | 届く相手 | 企業側の負担 | 向く場面 |
|---|
スカウト | データベースに登録した人。転職を急いでいない人も含む | 候補者選び・文面づくり・返信後の対応の工数 | 狙う人物像が具体的に決まっているとき |
リファラル採用 | 社員の知人・元同僚 | 社員への依頼と、紹介後の面談の段取り | 社員に同じ職種・同じ領域の人脈があるとき |
ヘッドハンティング | 公開の場に出てこない幹部候補 | 外部への費用が大きくなりやすい | CTO など1名の重要なポストを埋めるとき |
3つは並べて使うものです。社員の人脈から先に探し、狙う人物像が固まったらスカウトで範囲を広げ、1人の候補者を見つけ出す必要があるポストではヘッドハンティングを使う、という順番が1つの型です。スカウトとヘッドハンティングの費用と使い分けは「スカウトとヘッドハンティングの違い、費用と使い分け」、社員紹介の制度の組み方は「リファラル採用とは?仕組み・制度設計と社員紹介を回すコツ」にまとめています。
スカウトは返信の時点で詰まりやすく、文面と公開情報で差がつく
スカウトでハイレイヤーと面談に至らない原因は、開封されないことより、開封されたあと返信されないことにあります。Offers スカウトデータ(株式会社overflow・2025年3月〜2026年2月送信分・n=31,000)では、送信を100としたとき、開封が59.7%、返信・メッセージ開始が6.2%、面談が2.9%で、開封した人の90.2%は返信していませんでした。
段階 | 送信を100とした通過率 | 直前の段階からの通過率 |
|---|
スカウト送信 | 100% | — |
開封 | 59.7% | 59.7% |
返信・メッセージ開始 | 6.2% | 9.8% |
面談 | 2.9% | 46.1% |
出典:Offers スカウトデータ(株式会社overflow・2025年3月〜2026年2月送信分・正社員求人に紐づくスカウト・n=31,000)。
返信・メッセージ開始の9.8%は開封の記録がある人を母数にした値で、開封の記録が残らないまま返信に至った分は送信ベースの6.2%の側に入るため、開封59.7%に9.8%を掛けても6.2%とは一致しません。
返信した人の46.1%は面談まで進んでいます。面談1件を作るのに必要なスカウトは約35通(100÷2.9)の計算で、改善の余地が大きいのは返信の時点です。開封から返信へ進む人を増やせれば、送るスカウトの数を変えずに面談の数を増やせます。ハイレイヤー向けの文面では、候補者の経歴のどこを見て声をかけたのか、入社後に任せたい課題は何かを最初の数行に書くのが基本です。承諾率に差が出た文面の要素は「スカウト文面の書き方|承諾率を分けた要素」で扱っています。
返信するかを決めるとき、候補者は文面だけでなく、採用ページやテックブログ、求人票の年収など、検索して見つかる自社の公開情報も確かめるのが普通です。自社の公開情報がエンジニアからどう見えるかは、エンジニア採用力チェックで確かめられます。企業のURLから採用ページ・テックブログ・求人票などの公開情報を5指標24項目で採点し、1営業日以内にレポートが届く無料の診断で、スカウトの返信率や選考の通過率は測定の対象外です。
求人票は役職名より、任せる課題と権限を書く
ハイレイヤー向けの求人票では、「CTO候補」「VPoE候補」といった役職名を前に出すより、入社後に任せる技術課題・組織課題と、本人が決められる範囲を具体的に書くほうが、候補者にとって判断の材料になります。
Offers 登録者データ(株式会社overflow・2026年9月時点・n=31,649)で働く環境の希望を見ると、「マネージャーへのキャリアパスが明確な環境」を選んだ人は1.2%で、上位は「スタートアップ/大企業でも小さい組織が良い」(16.6%)と「今とは異なる言語/フレームワーク/開発環境に挑戦できる」(8.4%)でした。
ハイレイヤーに絞った集計ではありませんが、候補者が会社を選ぶ条件の上位に並ぶのは、肩書きよりも組織の規模と技術の挑戦です。求人票には次の5項目を書きます。
項目 | 書き方の例 |
|---|
解く課題 | 「単一のアプリケーションを分割し、リリースを週1回から毎日にする」のように、現状と目標を対で書く |
権限 | 技術選定・エンジニアの採用・予算のうち、どこまでを本人が決められるか |
報告ライン | 誰の直下に入るか。経営会議に出るか |
報酬レンジ | 下限と上限。ストックオプションの有無 |
組織の現状 | エンジニアの人数、チームの構成、抱えている技術的負債 |
役職名を前に出さない理由は、自社の側にもあります。CTO や VPoE のポストを求人票に明記すると、自社の組織の課題を社外に公表することになり、入社後に役割を見直す必要が出たときも動かしにくくなるためです。「テックリード候補」「マネージャー候補」として募集し、役割の最終形は面談で候補者と話して決める進め方もあります。
選考は経営陣が初回から会い、見極めと口説きを同時に進める
ハイレイヤーの選考では、CTO・CEO などの経営陣か、入社後に上長となる人が最初の面談から出て、事業と組織の課題を開示しながら候補者の考えを聞く進め方が基本です。候補者も企業を選ぶ立場にあるため、質問を一方的に重ねる面接を何回も挟むと、並行して話を聞いている他社に先を越されるからです。
選考の流れは、たとえば次の4段階で組みます。
- カジュアル面談:経営陣か入社後の上長が出て、自社の課題を先に話す。志望動機は求めない
- 技術・組織のディスカッション:自社が実際に抱えている設計や組織の課題を題材に、候補者ならどう進めるかを議論する。現場のエンジニアも同席し、互いの相性を見る
- 経営陣との面談:事業計画、資金の状況、任せる権限の範囲を話す
- オファー面談:役割・権限・報酬・入社後半年の期待を文書で示し、疑問に答える
2のディスカッションは、企業が候補者を見極める場であると同時に、候補者が「この会社で何を任されるのか」を確かめる場にもなります。課題を隠したまま進めた選考は、入社後に「聞いていた話と違う」という離職の原因を残すことになりかねません。
内定前に役割と権限を文書で合わせ、入社後の見直しの余地を残す
ハイレイヤーの採用で入社後のミスマッチを減らすには、内定を出す前に、入社後に任せる役割・本人が決められる権限・最初の半年に期待する成果を文書にして、候補者と合わせておくことです。役職名は入社の時点で確定させず、成果を見て段階的に役割を広げる形にしておくと、企業と候補者の双方に見直しの余地が残ります。
文書に書く項目は次の5つです。
- 役割:入社時点の役割と、半年後・1年後に任せたい範囲
- 権限:技術選定・採用・予算のうち、本人が決められる範囲
- 報告ラインと会議体:誰に報告し、どの会議に出るか
- 最初の90日の期待:最初に取り組む課題と、達成の目安
- 報酬と見直しの時期:提示額と、次に見直す時期と条件
入社後の最初の数か月は、経営陣が定期的に1on1の時間をとり、文書に書いた期待と実際の仕事の差を早めに確かめます。差が見つかったら、役割か期待のどちらかを文書ごと直します。ハイレイヤーの採用は内定で終わらず、入社後に役割を合わせ直すところまでが採用の仕事です。