人事評価DXは、評価シートを紙やExcelからシステムへ移すだけでは完了しません。評価の記録がデータとしてたまり、昇給や賞与に加えて配置・育成・採用の判断にも使われるようになって、DXと呼べる段階に届きます。
公的統計を見ると、評価の仕組みを持つ事業所でも、評価結果の使い道は処遇の判断に集中しています。評価結果を採用の判断に使う事業所は、処遇の判断に使う事業所よりはるかに少数です。
評価システムを入れたあとに何を目指すのか、自社がいまどの段階にいるのかは、評価データの使い道から測れます。
人事評価DXの定義と、評価のIT化との違い
人事評価DXは、評価シート・目標・面談記録をデジタルデータとして扱って評価業務の手間を減らし、蓄積した評価データを処遇・配置・育成・採用の判断に横断して使える状態へ変える取り組みです。評価システムを入れて回収や集計を早くするのは評価のIT化で、人事評価DXの入口にあたります。
IT化とDXの境目は、経済産業省がDXレポート2で示した3つの段階に当てはめると測りやすくなります。人事領域全体のDXの範囲と、IT化との線引きは人事DXとは?定義の所在とIT化との線引きで扱いました。
DXレポート2の3段階を人事評価に当てはめる
経済産業省の「DXレポート2 中間取りまとめ」(2020年12月28日)は、DXをデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの3段階に分けています。人事評価に当てはめると、段階ごとに起きることは次の表のとおりです。
段階 | DXレポート2の定義 | 人事評価で起きること |
|---|
デジタイゼーション | アナログ・物理データのデジタルデータ化 | 紙の評価シートをExcelやPDFに置き換え、共有フォルダで回収する |
デジタライゼーション | 個別業務・プロセスのデジタル化 | 目標設定・自己評価・一次評価・承認・面談記録を評価システムの上で回す |
デジタルトランスフォーメーション | 全社的な業務・プロセスのデジタル化と、顧客起点の価値創造のための事業やビジネスモデルの変革 | 評価データが配置・育成・採用の判断と同じデータの上でつながり、人材計画の前提が変わる |
出所:経済産業省「DXレポート2 中間取りまとめ」(2020年12月28日)の定義をもとに、人事評価の例は編集部が作成。
評価システムを入れて評価の流れを画面の上で回せる状態は、2段目のデジタライゼーションにあたります。3段目に届くかどうかを分けるのは、評価データを処遇以外の判断に使う設計の有無です。
人事評価のDXと、DXを進めるための人事評価の違い
「DX 人事評価」という言葉には2つの意味が混ざっています。1つは評価業務そのもののデジタル化、もう1つはDXを担う人材をどう評価し処遇するかという制度設計です。
前者は人事部門の業務改革、後者はDX戦略を支える人事制度の整備にあたり、現在地を測る統計も打ち手も異なります。後者は、情報処理推進機構(IPA)の調査をもとに後半の章で扱う論点です。
公的統計で見る人事評価DXの現在地
厚生労働省の「令和7年度 能力開発基本調査」(2026年7月31日公表)では、職業能力評価を行っている事業所は54.5%でした。評価を行っている事業所が評価結果を使う先は「人事考課(賞与、給与、昇格・降格、異動・配置転換等)の判断基準」が86.2%で最も多く、「人材の採用」は26.6%です。
事業所調査の対象は常用労働者30人以上を雇用する事業所で、調査対象数は7,194事業所、有効回答率は54.2%、調査時点は2025年10月1日です。
職業能力評価を行う事業所は54.5%
厚生労働省の用語の説明では、調査の「職業能力評価」を、厚生労働省の職業能力評価基準に準拠した基準、会社が独自に作成した基準や業界団体の基準、各種の検定・資格のいずれかに基づいて行われる評価と定めています。社内で独自に作った評価基準による評価も含まれます。
内訳は「正社員、正社員以外両方行っている」が33.9%、「正社員のみ」が19.8%、「正社員以外のみ」が0.8%で、「行っていない」は45.1%でした。正社員を雇用する事業所に限ると、正社員に職業能力評価を行っている割合は54.0%で、3年移動平均は近年ほぼ横ばいです。
企業規模 | 正社員に職業能力評価を行う事業所の割合 |
|---|
30〜49人 | 48.9% |
50〜99人 | 52.6% |
100〜299人 | 52.5% |
300〜999人 | 61.3% |
1,000人以上 | 58.6% |
出所:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」調査結果の概要(事業所調査・2025年10月1日時点)。
正社員への実施率が最も高いのは300〜999人の企業で、1,000人以上の企業を上回りました。企業規模が大きいほど評価の仕組みが整っているとは言い切れません。
評価結果の使い道は処遇の判断に集中している
職業能力評価を行っている事業所に評価結果の活用方法を尋ねると、上位3つは人事考課の判断基準、人材配置の適正化、能力開発の目標でした。人材戦略・計画の策定と人材の採用は、いずれも3割に届いていません。
職業能力評価の活用方法(複数回答) | 割合 |
|---|
人事考課(賞与、給与、昇格・降格、異動・配置転換等)の判断基準 | 86.2% |
人材配置の適正化 | 55.9% |
労働者に必要な能力開発の目標 | 36.7% |
人材戦略・計画の策定 | 27.5% |
人材の採用 | 26.6% |
技能継承のための手段 | 21.1% |
その他 | 1.9% |
出所:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」調査結果の概要(職業能力評価を行っている事業所の回答)。
調査はデジタル化の有無を尋ねたものではありません。ただ、評価結果を処遇以外のどこに使っているかは、DXの3段目に届いているかどうかの目安になります。
編集部の見立てで3段階に当てはめると、職業能力評価を行っている事業所(全体の54.5%)のうち86.2%が、評価結果を人事考課の判断に使うところまで届いています。一方で、評価データを人材戦略や採用に回すところまで進んだ事業所は、評価を行っている事業所の中でも少数派です。
本記事の段階分けと調査の区分はずれています。調査の「人事考課」の選択肢は異動・配置転換を含み、「人材配置の適正化」も55.9%あるため、配置への活用は処遇の判断と重なっています。
クラウド利用企業の56.3%が給与・財務会計・人事の用途で使っている
総務省の「令和7年通信利用動向調査」(2026年5月29日公表)では、クラウドサービスを利用する企業のうち「給与、財務会計、人事」の用途で使う企業が56.3%で、前年の52.1%から上がりました(常用雇用者100人以上の企業・クラウド利用企業の回答 n=2,133・2025年8月末時点)。
区分は給与・財務会計・人事をまとめたもので、人事や人事評価だけを切り出した値ではありません。
人事評価DXで変わる3つの業務
人事評価DXで変わる業務は、評価シートの配布・回収・集計、評価面談とその記録、評価データの分析と他業務への受け渡しの3つです。前の2つは評価業務の手間を減らす変化で、3つ目が評価結果の使い道を処遇の外へ広げる変化にあたります。
業務 | 紙・Excelで回すとき | システムの上で回すとき | 段階 |
|---|
評価シートの配布・回収・集計 | 人事がファイルを配り、未提出者に個別に催促し、手作業で集計する | 提出状況が一覧で見え、催促と集計が画面の上で済む | デジタライゼーション |
評価面談とその記録 | 面談の内容が評価者の手元のメモに残り、次の期に引き継がれにくい | 目標・自己評価・面談記録が同じ画面にまとまり、評価者が代わっても経緯を追える | デジタライゼーション |
評価データの分析と受け渡し | 部署ごとに形式が違い、全社で比べるには転記が要る | 評価の分布や評価者ごとの傾向を全社で比べ、配置・育成計画・採用要件の検討に渡せる | デジタルトランスフォーメーション |
編集部の見立てでは、回収と集計はデジタル化による手間の削減が見えやすい業務です。評価の1サイクルで人事が催促と転記に使っていた時間が減り、その時間を評価結果の読み込みに回せます。
面談記録が残ると、評価者が異動しても前の期の目標と評価の理由を追えます。評価への納得感を左右する「なぜこの評価なのか」の説明を、記録をもとに組み立てられる点も大きな違いです。
3つ目の業務では、評価者ごとに評価が甘いか辛いかを全社の分布で比べられます。高い評価を得ている人がどの部署に多いか、どの行動や成果が評価されているかを読み、配置や育成の判断材料にするところまで進むのが、3段目への入口です。
人事評価DXが止まりやすい3つの理由
人事評価DXが2段目で止まりやすい理由は、評価基準が曖昧なまま仕組みだけを移すこと、部署ごとに評価データの項目と形式が揃っていないこと、評価結果を処遇以外に使う場面が決まっていないことの3つです。いずれもツールの性能ではなく、導入前の設計で決まります。
評価基準が曖昧なまま仕組みを移す
紙の評価シートの項目をそのまま画面に移すと、「主体性」「協調性」のように評価者によって解釈が分かれる項目も、解釈が分かれたまま残ります。集計が速くなっても、評価者をまたいで比べられるデータにはなりません。
評価項目ごとに、どの行動や成果が見えたら何段階目なのかを言葉にしておくことが、システムに移す前の作業です。
評価データの項目と形式が部署で揃っていない
部署ごとに評価段階の数や目標の書き方が違うと、全社で並べたときに比べられません。5段階評価の部署と7段階評価の部署が混ざっていれば、同じ「上から2番目」でも意味が変わります。
評価データを配置や育成に使うには、評価段階・評価項目の定義・目標の記録形式を全社で揃えておく必要があります。
評価結果を処遇以外に使う場面が決まっていない
厚生労働省の能力開発基本調査で評価結果を人材の採用に使う事業所が3割に届かないように、評価結果を処遇の決定以外に回す場面は、意図して作らなければ生まれません。
どの会議で、誰が、評価データのどの項目を見て判断するのかを決めておかないと、システムにたまったデータは昇給と賞与の計算にしか使われないまま残ります。
人事評価DXの進め方5ステップ
人事評価DXは、現状の棚卸し、目指す段階と使い道の決定、評価基準とデータ項目の統一、ツールの選定と試行、評価データの他業務への接続の順に進めます。ツールの選定を4番目に置くのは、評価基準とデータ項目が揃わないまま導入すると、紙の運用を画面に写すだけで2段目にとどまるためです。
ステップ1 評価業務とデータの所在を棚卸しする
評価シートの形式、回収の経路、集計の担当者、評価結果の保管場所を部署ごとに書き出します。評価の1サイクルで人事と評価者が使っている時間の記録も、導入後に比べる基準として残しておきたい項目です。
ステップ2 目指す段階と評価データの使い道を決める
3段階のどこを目指すかを、ツールを選ぶ前に決めます。回収と集計の手間を減らすのが目的なら、目指すのは2段目のデジタライゼーションです。
評価データを配置や採用にも使うなら3段目が目標になり、どの判断に評価データを使うかまで先に決めておきます。
ステップ3 評価基準とデータ項目を揃える
最初に揃えるのは、評価段階の数、評価項目の定義、目標の記録形式の3点です。業績評価にKPIを組み込む場合の指標の選び方と落とし穴をまとめた記事が、KPI人事評価の定義と設計手順です。
ステップ4 ツールを選び、一部の部署で試す
人事評価システムやタレントマネジメントシステムは、ステップ2で決めた使い道に要る機能から選びます。機能の比較と選び方は人事評価システム導入のメリットと選び方を解説にまとめました。
全社で一度に切り替えず、1つの部署で1サイクル回して、評価者の入力の負担と集計の手間を確かめてから広げます。
ステップ5 評価データを配置・育成・採用につなぐ
評価データを処遇以外の判断に使う場面を、会議体と担当者の単位で決めます。高い評価を得ている人の行動やスキルを整理して異動先の選定や育成計画に使う、採用要件の「求める経験」に反映する、といった使い方です。
採用につなぐ段では、社内で整理した採用要件と並べて、自社の採用情報が外からどう見えているかも確かめておくと、要件と発信のずれに気づけます。Offersのエンジニア採用力チェックは、エンジニア・技術職の採用に特化し、企業URLから公開情報を5指標24項目で採点して、原則1営業日以内にレポートが届くサービスです。社内の評価データや選考の通過率は採点の対象外です。
DXを進めるための人事評価制度
DXを担う人材の評価については、IPAの「DX動向2026」で、DX人材の評価基準を「基準はない」と答えた企業が2025年度で76.1%でした。2024年度の75.7%とほぼ同じ水準で、評価基準の設定状況は1年で変わっていません。
調査は日本企業1,799社の有効回答(2025年度調査)で、評価基準の設問は全社または一部の部門・部署でDXに取り組んでいる企業に尋ねたものです。
DX人材の評価基準は76.1%の企業で未整備
IPAの同じ調査は、評価基準を設定している企業やスキルを把握している企業ほどDX推進人材の不足感が低い傾向があり、特に質の確保で差が大きいとしています。DX推進に必要なスキルを「把握できていない」企業は、2025年度で52.8%でした。
DX人材の不足を採用で埋めるのと並行して、社内で求める人物像とスキルを定め、評価基準に落とし込む作業も検討の対象になります。DX人材の類型と必要スキルはDX人材とは?6類型の職種・必要スキルと採用・育成の進め方で整理しています。
スキルを評価と報酬に反映する仕組み
IPA「DX動向2026」の企業文化・風土の設問では、「新しいスキル等を習得することが奨励される」を「できている」とした回答が54.0%だったのに対し、「高いスキルを持っていることが報酬に反映される」は32.3%でした。IPAは、スキルに対する要求と育成・評価とのギャップがみられると述べています。
スキルの習得を求めながら評価と報酬に反映しなければ、身につけたスキルが社内で報われない状態が続きます。求めるスキルの段階を評価項目に入れ、等級や報酬の決定にまで反映させるところまでが、DXを進めるための人事評価制度の整備です。
人事評価DXの到達点は評価データの使い道で決まる
人事評価DXの到達点は、どのシステムを入れたかではなく、評価データを処遇以外のどの判断に使っているかで決まります。厚生労働省の調査では、評価結果の使い道は人事考課の判断基準に集中し、人材戦略・計画の策定や人材の採用に使う事業所は3割に届いていません。
現在地を測る数字 | 値 | 出所 |
|---|
職業能力評価を行っている事業所 | 54.5% | 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」 |
評価を行う事業所のうち、評価結果を人事考課の判断基準に使う割合 | 86.2% | 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」 |
評価を行う事業所のうち、評価結果を人材の採用に使う割合 | 26.6% | 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」 |
クラウド利用企業のうち、給与・財務会計・人事の用途で使う割合 | 56.3% | 総務省「令和7年通信利用動向調査」 |
DXに取り組む企業のうち、DX人材の評価基準が「基準はない」割合 | 76.1% | IPA「DX動向2026」 |
「高いスキルを持っていることが報酬に反映される」を「できている」とした回答 | 32.3% | IPA「DX動向2026」 |
評価のIT化を2段目で終えず、配置・育成・採用の判断に評価データを使う場面を1つずつ決めていくことが、人事評価DXを3段目へ進める手順になります。DXを担う人材の評価基準の整備も、同じ評価制度の見直しの中で進められる論点です。