DXとSIerは、比べる物差しが異なる言葉です。DXは企業が自らの事業や組織を変える取組みを指し、SIerはその企業から情報システムの開発を請け負う事業者を指します。
それでも2つが並べて検索される背景として考えられるのは、「DXを進めたいが、付き合いのあるSIerに任せてよいのか」という問いです。
違いを押さえると、SIerに任せてよい仕事と自社に残す仕事の線が引けます。その線の位置は、採用で埋めるべき役割の範囲とも重なります。
DXは企業の変革、SIerは開発を請け負う事業者
DXとSIerの違いは、指しているものの種類です。DXは企業がデータとデジタル技術を使って事業や組織を変える取組みで、主体は変革する企業自身です。SIer(システムインテグレーター)は、顧客企業から情報システムの企画・設計・開発・運用を請け負う事業者で、DXでは支援する側に立ちます。
経済産業省のデジタルガバナンス・コード3.0(2024年9月19日改訂)は、DXを、データとデジタル技術を使って製品・サービスやビジネスモデルを変え、あわせて業務・組織・プロセス・企業文化や風土まで変えて、競争上の優位性を確立することと定義しています。
変える対象に組織や企業文化まで入っている点が、外部の事業者に代わりを頼めない理由です。
SIerの側について、経済産業省のDXレポート2(中間取りまとめ)(2020年12月28日)は、多くのベンダー企業がユーザー企業のITシステムを個別に開発・納入する受託開発型のビジネスを展開し、大手ベンダー企業が請け負った業務の一部を下請企業に委託する多重下請構造が取られてきたと説明しています。
比べる点 | DX | SIer |
|---|
言葉が指すもの | 企業の変革の取組み | 情報システムの開発を請け負う事業者 |
主体 | 変革する企業(ユーザー企業) | ユーザー企業から受託するベンダー企業 |
目指すもの | 競争上の優位性の確立 | 契約で決めたシステムの開発・納入 |
DXでの立ち位置 | 当事者 | 支援する側(共創的パートナーへの転換が求められている) |
出所:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」(2024年)・「DXレポート2」(2020年)をもとに編集部作成
DXとIT化・デジタル化の線引きは「DXとIT化・デジタル化の違い」で扱っています。
日本ではIT人材の7割以上がIT企業の側にいる
日本では、DXを支える技術者の多くがIT企業の所属です。IPA(情報処理推進機構)が2023年3月16日に公表した国勢調査と米国の職業雇用統計による日米比較では、情報処理・通信に携わる人材のうちIT企業に所属する割合は、日本(2020年)が73.6%、米国(2021年)が35.1%でした。
日本の割合は2015年の72.0%から大きく変わっていません。ここでいうIT企業は、ソフトウェア業・情報処理・提供サービス業・インターネット附随サービス業の3業種です。
DXレポート2も、米国ではシステム開発をユーザー企業で行うなど、ベンダー企業との境目がなくなる形で変化が進んでいる一方、「わが国では IT 人材がベンダー企業に偏り」雇用環境も米国と異なると書いています。
コア領域の開発は日本では外部委託が最も多い
日本企業が自社のコア事業・競争領域のシステムに使う手段で、最も多いのは外部委託による開発です。IPA「DX動向2025(データ集)」(2025年6月26日・2024年度調査)では、日本は外部委託による開発が37.8%、内製による自社開発が28.2%でした。米国は内製が48.5%で、外部委託の30.6%を上回ります。
コア事業/競争領域のソーシング手段 | 日本(n=1,480) | 米国(n=509) | ドイツ(n=537) |
|---|
内製による自社開発 | 28.2% | 48.5% | 31.3% |
外部委託による開発 | 37.8% | 30.6% | 28.1% |
パッケージソフトウェアの導入 | 29.6% | 23.4% | 33.1% |
SaaSの導入 | 13.0% | 16.1% | 13.4% |
出所:IPA「DX動向2025(データ集)」ソーシング手段の状況(国別)(2025年6月26日)から選択肢を抜粋
日本企業の29.3%は外部開発を続け、内製化を進めていない
システム開発の内製化について、日本企業の29.3%が「外部開発を今後も利用予定であり、内製化は進めていない」と答えています。同じ調査で米国は6.5%にとどまり、「内製化を進めている」は日本22.3%に対して米国46.4%でした。
システム開発の内製化 | 日本(n=1,500) | 米国(n=509) | ドイツ(n=537) |
|---|
内製化を進めている | 22.3% | 46.4% | 22.7% |
必要な部分は内製化済なので、現在は進めていない | 16.7% | 37.1% | 36.5% |
パッケージやSaaSを利用しているので、内製化は進めていない | 22.5% | 9.2% | 21.6% |
外部開発を今後も利用予定であり、内製化は進めていない | 29.3% | 6.5% | 17.5% |
出所:IPA「DX動向2025(データ集)」システム開発の内製化(国別)(2025年6月26日)から選択肢を抜粋
コア領域の開発でSIerに出す外部委託は、日本企業で最も多い手段です。問われるのは、何を外に出し、何を社内に残すかです。
工程ごとにどこまで社内に残っているかは「内製化とは?完全内製4.5%と工程別の進め方」で扱っています。
SIerに任せきりにすると「低位安定」の関係に固定される
SIerに判断まで預ける関係は、発注する企業とSIerの双方から、変化に対応する力を奪う関係です。経済産業省のDXレポート2.1(DXレポート2追補版)(2021年8月31日)は、ユーザー企業とベンダー企業の関係が、両者ともデジタル競争で勝ち抜くことが難しい「低位安定」の関係に固定されていると指摘しました。
ユーザー企業の側は、ITをコストと捉えてベンダー企業を競わせ、コストを下げる立場です。ベンダー企業は労働量に対する値付けで、低リスクのビジネスを実現します。一見Win-Winに見える関係が、続けるほど両者から必要な能力を奪う構図です。
| ユーザー企業(発注側) | ベンダー企業(SIer側) |
|---|
得ているもの | コスト削減 | 低リスク・長期安定のビジネス |
失っていくもの | ITをベンダー企業任せにすることでIT対応能力が育たない | 利益水準が低く、多重下請け構造を含めて売上総量の確保が必要になる |
その先 | ITシステムのブラックボックス化とベンダーロックインで、経営のアジリティが下がる | 生産性を上げるインセンティブが働かず、技術開発投資も難しい |
行き着く先 | 顧客へ迅速に価値を提供できない | 新たな能力を獲得できず、デジタルの提案ができない |
出所:経済産業省「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」(2021年8月31日)図2-1をもとに編集部作成
SIerの側にも内製化を勧めにくい事情がある
SIerが自ら内製化を勧めにくい理由は、事業の構造にあります。DXレポート2.1は、受託型ビジネスを現業とするベンダー企業がユーザー企業の変革を伴走支援する企業へ変わろうとすると、内製化への移行で受託型ビジネスより売上規模が縮小し、支援が進むほど最終的には自分たちが不要になる、というジレンマを挙げています。
この構造の中では、SIerの提案を待つだけで役割分担が組み替わることは期待しにくいのが実情です。線を引くのは発注する企業の側の仕事です。
SIerとの線を引くには、発注側で判断できる人材が要る
SIerに任せる範囲を決め、何を作るかを判断するには、技術と事業の両方で判断できる人材が社内に要ります。IPA「DX動向2025」は、内製化を進めるにあたっての課題として、日本では「人材の確保や育成が難しい」の回答率が突出していると報告しています。
IT人材の73.6%がIT企業の側にいるという統計を踏まえると、発注側で判断できる人材を中途採用で探すとき、候補者にはSIerを含むIT企業で要件定義やプロジェクト運営を経験してきた人が多いと見るのが自然です。
求人票には「SIerの管理」ではなく、「何を作るかを決め、SIerと分担して進める役割」と書くと、受託側から発注側へ移りたい人に仕事の中身が伝わります。DX推進に関わる職種の分け方は「DX人材とは?6類型の職種・必要スキルと採用・育成の進め方」、中途採用の進め方は「エンジニア中途採用とは?職種別の市場と進め方」が詳しい内容です。
発注側の技術者の採用に向けて、自社の採用情報が候補者からどう見えているかを確かめるなら、エンジニア採用力チェック(無料)が使えます。企業URLを入力すると、公開情報を技術ブランド発信力・技術環境の透明性・採用情報の充実度・雇用条件の競争力・採用活動の積極性の5指標24項目で採点したレポートが、原則1営業日以内にメールで届く仕組みです。
DXで自社に残す役割とSIerに任せられる役割
自社に残すのは、何を作り、何を変えるかを決める役割です。IPAの情報システム・モデル取引・契約書(アジャイル開発版)(2020年3月31日公開)は、プロダクトの方向性と内容に責任を持つプロダクトオーナー(PO)をユーザ企業が選任し、チームの活動を支えるスクラムマスターをベンダ企業が選任する体制を前提にしています。
役割 | 担う側 | モデル契約での位置づけ |
|---|
プロダクトオーナー(PO) | 自社(ユーザ企業) | プロダクトの方向性と内容に責任を持つ。開発チームが必要とする情報や意思決定を適時に提供し、ステークホルダーと調整する |
スクラムマスター | SIer(ベンダ企業) | スクラムチーム全体の活動が円滑になるよう支援する |
開発チーム | SIer(ベンダ企業) | 必要な能力を持つメンバーで構成し、チームを固定する |
技術面の助言 | SIer(ベンダ企業) | 善管注意義務のもと、バックログに関する助言やプロダクトの技術的なリスクの説明を行う |
出所:IPA「情報システム・モデル取引・契約書(アジャイル開発版)」(2020年3月31日公開)をもとに編集部作成
同じページでIPAは、発注側がアジャイル開発の利点を生かすには「十分なスキルとノウハウを有するベンダ企業を選定するだけでは足りず」、プロダクトの方向性と内容を決めるための主体的な関与が必要で、相応の負担を伴うと書いています。SIer選びの巧拙より先に問われるのは、社内に決める人がいるかどうかです。
請負と準委任では、SIerに払う対価の対象が違う
SIerとの契約には、成果物の完成に対価を払う請負契約と、専門家として業務を遂行すること自体に対価を払う準委任契約があります。IPAのアジャイル開発版モデル契約は、機能の追加・変更や優先順位の変更に柔軟に対応できるよう、請負ではなく準委任を前提にしています。
準委任でSIerの技術者が自社のチームと並んで働くなら、指示の出し方にも注意が必要です。IPAは、受発注契約の下でアジャイル開発を行う場合に偽装請負を指摘されるリスクについて、厚生労働省が37号告示(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準)の疑義応答集(第3集)を2021年9月21日に公表していると案内しています。
外部の技術者を自社のチームに受け入れるときの線引きを扱った記事が、「FDE(Forward Deployed Engineer)の事例11件と組み方、偽装請負を避ける受け入れ方」です。
SIerに相談する前に社内で決めておく4点
SIerに声をかける前に、目的、プロダクトのビジョン、役割分担、POを誰が務めるかの4点を社内で決めておきます。4点は、IPAのアジャイル開発版モデル契約の契約前チェックリストから抜き出した項目です。
- 目的とゴール:プロジェクトの目的(少なくとも当面のゴール)が明確で、ステークホルダーと認識が共有されているか
- プロダクトのビジョン:開発対象のプロダクトのビジョンが明確で、ステークホルダーと共有されているか
- 役割分担:ユーザ企業とベンダ企業の役割分担を、双方が理解しているか
- POの選任:適切なプロダクトオーナーを選任し、権限を委ねられるか
4点のどれかが社内で決まらないまま発注すると、決める役割ごとSIerに渡ることになります。DXレポート2.1が指摘した「低位安定」の関係に戻る入口は、この発注の前の段階にあります。