社外の候補者に送ったスカウトの8割強には、返事が来ません。本記事を運営する株式会社overflowの採用サービス Offers で、1年間に送られた3万通あまりを数えた結果です。
その一方で、社員に他部署から声をかける「社内スカウト制度」を始める大企業が出てきました。人事が扱うスカウトは、いまや社外向けと社内向けの2種類あります。
打つ前に決めることも詰まり方も、2つはまるで違います。それぞれの詰まり方を実測と公表実績で確かめ、欠員が出たときにどちらをどう組み合わせるかの手順を示すのが、この記事の目的です。
人事が扱うスカウトは社外向けと社内向けの2つ
人事が扱うスカウトは、社外の候補者に入社を勧めるものと、自社の社員に別部署への異動を勧めるものに分かれます。前者は採用、後者は配置にあたり、制度の土台も違うのが特徴です。
社外スカウトは、職業安定法第4条第5項の「労働者の募集」にあたります。定義は、労働者となろうとする者に、自社の被用者となるよう勧誘することです。送り手ごとの扱いの違いは、スカウト採用とは?誰が送るかで変わる扱いで条文ごとに整理しました。
出所:e-Gov 法令検索「職業安定法」(2026年9月26日時点の現行条文)。
社内スカウトの相手は、すでに自社で働く社員です。入社の勧誘ではないので、就業規則や人事制度の中で組み立てることになります。
比べる点 | 社外スカウト | 社内スカウト |
|---|
相手 | 自社を知らない社外の候補者 | 自社の社員(多くは制度に自分で登録した人) |
声をかける人 | 人事・採用担当、または現場の社員 | 人材を求める部署 |
送り手が持つ相手の情報 | 媒体のプロフィールだけ | 社内での実績・評価・働きぶり |
成立したときの人数の動き | 会社全体で1人増える | 会社全体の人数は変わらない |
制度の土台 | 職業安定法の労働者の募集 | 就業規則・人事制度 |
この記事で最も大事なのは、表の下から2行目です。
社内スカウトは人を増やさない。空いた席を、別の席へ付け替えるだけです。
社内スカウトと社内公募・自己申告の違い
社内スカウトは、人を求める部署の側から社員に声をかける仕組みです。社員が募集に手を挙げる社内公募や、社員の希望を人事が集める自己申告とは、最初に動く人が違います。
仕組み | 最初に動く人 | 流れ |
|---|
自己申告 | 社員 | 希望を人事に伝え、人事と部門が配置を検討する |
社内公募 | 人を求める部署 | 要件を社内に公開し、手を挙げた社員から選ぶ |
社内スカウト | 人を求める部署 | 登録された社員の経歴を見て、部署から直接声をかける |
普及の度合いにも差があります。リクルートマネジメントソリューションズ「個人選択型HRMに関する実態調査」は、2022年3月に公表された人事296社への調査です(HRMは人的資源管理の略)。導入率は自己申告制度が67.6%、社内公募制度が42.2%でした。
社内スカウトはこれらより新しく、大企業での導入が始まった段階です。パーソルグループは2023年10月に国内社員約2.5万人を対象に始めました。日本ガイシは2025年4月から、管理職を対象に運用しています。
社外スカウトは送った通数の8割強に返事がない
社外スカウトの詰まりは、「開かれない」と「開かれても返事がない」の2段にほぼ半分ずつ割れます。数えたのは、Offers で2025年9月から2026年8月に正社員求人から送られたスカウト31,008通の行方です。送り手の企業は約120社(122社)でした。
送ったスカウトの行方 | 通数 | 割合 |
|---|
開かれないまま返事もない | 12,997 | 41.9% |
開かれたが返事がない | 12,885 | 41.6% |
辞退の返事 | 3,787 | 12.2% |
承諾 | 1,339 | 4.3% |
返事が来なかったのは合計25,882通で、全体の83.5%です。承諾1件を得るまでに、平均で約23通を送った計算になります(31,008通÷1,339通・Offers 算出)。
半分近くは、相手が送り手を知らない段階で止まっています。候補者は知らない会社からの通知を、件名と社名だけで開くかどうか決めるからです。開かれなければ、文面はどれだけ磨いても読まれません。
この段で問われるのは、社名を見た候補者の頭に何が浮かぶかです。エンジニア職を探しているなら、自社の求人票や技術発信が候補者にどう届いているかを、後の節で紹介するエンジニア採用力チェックで採点できます。
開かれた後の詰まりは、文面と条件の問題になります。承諾率を分けた文面の要素は、送信本文の実測をもとにスカウト文面の書き方|承諾率を分けた要素でまとめました。
社内スカウトは候補が社内のごく一部に限られる
社内スカウトには、社外で最も大きい「開かれない」段が最初からありません。声をかける部署も、声をかけられる社員も、同じ会社の中にいるからです。代わりに制約になるのは、候補の少なさです。
パーソルホールディングスが2024年3月4日に公表した初年度の実績(速報値)では、登録した社員が566名、送られたスカウトが695件でした。異動が確定したのは64名です。
パーソルのキャリアスカウト制度(2023年10月〜12月の選考分) | 値 |
|---|
対象の国内社員 | 約2.5万人 |
プロフィールを登録した社員 | 566名 |
送られたスカウト | 695件 |
異動が確定した社員 | 64名 |
初年度に登録したのは、対象者の約2.3%です(566名÷約2.5万人・Offers 算出)。部署が声をかけられる相手は、社内のごく一部に限られます。
その後、同社のオウンドメディア「Touch! PERSOL(パーソル)」の2026年9月15日の記事では、登録者は延べ2,000人超とされています。2023年10月の開始から約3年間の延べ人数なので、初年度の表の数字とは並べて比べられません。
日本ガイシは2024年11月19日の発表で、社内公募制度を全基幹職へ広げると同時に、社内スカウト制度を新設しました。手を挙げる仕組みと声をかける仕組みを、並べて用意した形です。
社内スカウトは「探す席の付け替え」に使う
ここまでで分かったことを1文にまとめます。社外スカウトは相手が自社を知らない段で半分近くが止まり、社内スカウトは候補が少ないうえに人数を増やしません。
ここから導ける使い方は1つです。社内スカウトは、社外で探しにくい席を埋めるために使い、動かした人の元の席は社外で探しやすいことを確かめてから動かす。 採用の総数は同じでも、社外スカウトで探す席を、見つけやすい席へ付け替えられます。
探しにくさは職種の求人倍率で当たりをつける
社外での探しにくさは、職種によって大きく違います。厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」参考統計表の常用(パート含む)の有効求人倍率は、職業計が1.05倍でした。
職種(令和8年7月・常用・パート含む) | 有効求人倍率 |
|---|
職業計 | 1.05倍 |
情報処理・通信技術者 | 1.34倍 |
一般事務従事者 | 0.29倍 |
情報処理・通信技術者と一般事務従事者の間には、約4.6倍の開きがあります(1.34÷0.29・Offers 算出)。この統計はハローワークが受け付けた求人と求職だけの集計で、民間の転職サービス経由の動きは含みません。それでも、職種ごとの探しにくさの向きをつかむ目安にはなります。
付け替えるかどうかは3つの問いで決める
欠員が出た席について、次の3つを順に確かめます。
問い | Yes なら | 例 |
|---|
1. 要件の中心は、自社の製品・既存顧客・社内の意思決定の経緯を知っていることか | 社内スカウトの候補になる | 既存顧客の事情を知る人が要る新規事業の立ち上げ |
2. 社内に前例のない職種・技術・規模の経験が要るか | 社外スカウトで探す | 社内に経験者がいない技術領域の責任者 |
3. 社内から動かした人の元の席は、社外で探しやすいか | 社内で動かし、空いた席を社外で埋める | 市場に同じ経験の人が多い、既存事業の中堅 |
問い1に当てはまらないのは、経験年数や使う技術だけで要件が書ける席です。市場に同じ経験の人がいるので、社内の少ない候補から探す理由がありません。
問い3で「探しにくい」となったら、付け替えは成り立ちません。元の席が埋まらず、欠員の場所が移るだけだからです。
新規事業の責任者が必要になった会社の例
架空の例で流れを追います。既存事業の顧客を相手に新しいサービスを立ち上げることになり、責任者の席が空いたとします。
- 問い1: 要件の中心は既存顧客の事情を知っていること。社内スカウトの候補になる
- 社内スカウトで、既存事業の営業チームのリーダーに声をかける
- 問い3: 空いた営業リーダーの席は、同じ業界の法人営業の経験者を社外で探せる。付け替えは成り立つ
- 空いた営業リーダーの席を、社外スカウトで探す
もし新しいサービスに社内の誰も経験のない技術が要るなら、責任者の席は問い2に当たります。社内で探し続けるより、はじめから社外スカウトに回したほうが早く埋まるはずです。
社内公募制度では、新規事業の人材発掘は実感が目的に届いていない
社内の人だけで探す仕組みは新規事業の人材発掘で実感が伸びにくいことを、リクルートマネジメントソリューションズの2022年3月の調査(社内公募制度の導入企業125社)が示しています。社内スカウトではなく、隣の制度である社内公募制度のデータです。
「新規事業・新規プロジェクトを担う人材の発掘」を目的に挙げた企業は55.2%でした。一方、その効果を実感している企業は34.4%にとどまります。「若手社員のモチベーション向上」が目的72.8%・効果実感55.2%なのと比べると、実感の届き方が低めです。
この差の理由は、調査からは分かりません。以下は類推です。社内公募でも社内スカウトでも、候補が社内の人に限られる点は同じです。新規事業に要る経験が社内に無ければ、どちらの制度で探しても見つかりません。
社外スカウトを打つ前に人事が決める3つ
付け替えの結果、社外スカウトで探すと決めた席について、送り始める前に次の3つを決めておきます。どれも、先に見た「開かれない」「開かれても返事がない」の2段に対応する項目です。
1. 声をかける相手の条件を、席の要件の言葉で書く
媒体の検索条件は、職種と経験年数で組みがちです。要件を「何をした経験があるか」の言葉でいったん書き出し、それから検索条件に落とします。付け替えで社外に回した席なら、市場に同じ経験の人がいるはずなので、条件は具体的に書けます。
2. 誰の名前で送るかを決める
開かれるかどうかを左右するのは、件名と送り手の名前です。人事の名前で送るか、配属先の責任者や現場の社員の名前で送るか。席ごとに決めてください。現場の社員が送る場合も、自社による労働者の募集であることは変わりません。
社外の手段には、スカウトのほかに人材紹介やヘッドハンティングもあります。費用の出方と使い分けは、スカウトとヘッドハンティングの違い、費用と使い分けで比べました。
3. 候補者から自社がどう見えているかを先に確かめる
知らない会社からスカウトを受けた候補者は、開く前後に社名を検索し、求人票や発信を確かめます。ここで伝わる情報が薄いと、開かれても返事は来ません。送る前に、候補者の目に映る自社の姿を点検しておくことです。
エンジニア職を社外スカウトで探すなら、エンジニア採用力チェックが無料で使えます。対象はエンジニア職の採用に限られますが、企業の URL を入れると、公開情報から採用力を5つの指標で採点します。どの指標が候補者に届いていないかが分かれば、スカウトの前に直す箇所がはっきりするはずです。
社内スカウトを制度にする前に人事が決める3つ
社内スカウトの成否を分けるのは、声をかけられた社員が安心して応じられるかどうかです。制度を始める前に、次の3つを就業規則や運用ルールに書いておきます。
- いまの上司に、いつ伝えるか。声がかかった時点、選考に進んだ時点、異動が決まった時点のどれにするか。早すぎると社員は応じにくく、遅すぎると元の部署が穴を埋める準備に間に合わない
- 断ったこと・落ちたことを評価に持ち込まないと明文化するか。断った相手と同じ会社で、翌日からも働き続けることになる
- 選考で落ちた社員に、誰が何を伝えるか。理由が分からないまま終わると、次に声がかかっても応じなくなる
1つ目は、付け替えの成否にも関わります。元の部署が穴を埋める準備を始められるのは、上司が異動を知った時点からだからです。
欠員が出たら、社外求人を出す前に付け替え表を1枚作る
明日から変えられるのは、欠員が出たときの最初の一手です。社外スカウトや求人をいきなり出す前に、次の表を1枚埋めてください。
欄 | 書くこと |
|---|
空いた席 | 職種と、要件の中心(自社固有の経験か、市場にある経験か) |
社内から動かせる候補 | その経験を持つ社員がいる部署と席 |
動かした後に空く席 | その席の職種と、社外での探しやすさ(求人倍率・過去の採用実績) |
結論 | 空いた席を社外で探すか、社内で埋めて空く席を社外で探すか |
表が埋まれば、社外スカウトで探すべき席が1つに決まります。社外スカウトの費用の相場は、ダイレクトリクルーティングとは?利用率37.3%と費用で扱っています。