ヘッドハンティング採用の定義と、ほかの採用手法との違い
ヘッドハンティング採用は、企業が求める人物像を起点に、ヘッドハンターが転職潜在層を含めて候補者を探し出し、企業に代わって転職を勧める採用手法です。求人を出して応募を待つ手法とは、候補者を見つける起点と、最初に声をかける主体が違います。法律上の扱いを手法ごとに並べたのが次の表です。
手法 | 最初に声をかける人 | 主な候補者層 | 法律上の扱い |
|---|
ヘッドハンティング(サーチ型) | ヘッドハンター | 転職活動をしていない層を含む | 有料職業紹介(職業安定法第30条の許可が必要) |
人材紹介(登録型) | 紹介会社 | 紹介会社に登録した転職希望者 | 有料職業紹介(許可が必要) |
自社スカウト(ダイレクトリクルーティング) | 自社の担当者 | データベースやSNS上の人材 | 労働者の募集(原則自由) |
求人広告 | 応募者自身 | 転職活動中の層 | 労働者の募集(原則自由) |
出所:厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」(令和8年9月14日適用)・「募集・求人業務取扱要領」(令和7年6月)をもとにOffers作成。
ヘッドハンティング会社は、候補者を一から探すサーチ型と、自社の登録者から探す登録型に大別され、両方を併用する会社もあります。どちらの型でも、企業に代わって候補者に声をかける点は同じです。
エンジニアやAI人材の採用で、候補者を探して打診を続ける工数が社内に足りない場合は、Offers の AI RPO に相談することができます。主な対象はCTO・テックリード・AIエンジニアなどエンジニアの採用で、候補者の発見から時機を合わせたアプローチまでを支援します。運営は株式会社overflow(有料職業紹介事業 許可番号13-ユ-310171)です。
事業としてのヘッドハンティングは職業紹介で、許可が要る
事業として行うヘッドハンティングは、職業安定法上の「職業紹介」に当たり、行うには有料職業紹介事業の許可が必要です。厚生労働省の「職業紹介事業の業務運営要領」第1(令和8年9月14日適用)が、求人者に紹介するために求職者を探し、就職を勧め、応じた人をあっせんする「いわゆるスカウト行為」を事業として行う場合は職業紹介事業に含まれると定めています。
同じ要領は、候補者が勧めに応じた時点で求職の申込みがあったとみなしています。候補者が自分から転職サイトに登録していなくても、声をかけられて応じれば職業紹介の対象になるということです。メールで勧誘する場合も同じ扱いです。
許可の根拠は職業安定法第30条第1項で、有料の職業紹介事業を行う者に厚生労働大臣の許可を求めています。依頼先が許可を持たずにヘッドハンティングを事業として行っていれば、第30条第1項に反する状態です。
ヘッドハンティングを職業紹介として扱う考え方の下敷きは、最高裁の判断です。厚生労働省の「募集・求人業務取扱要領」(令和7年6月)は、東京エグゼクティブ・サーチ事件の最高裁判決(平成6年4月22日)が、人材スカウト行為に「きわめて広く職業紹介性」を認めたと説明しています。
2026年9月の要領改正で、スカウト代行の線引きの例が改められた
職業紹介事業の業務運営要領の改正版の適用開始は、2026年9月14日です。改正概要によると、改正箇所は第1のうち募集情報等提供と職業紹介の区分を定めた項目(改正概要の表記は2(4)ロ、要領本文では4(4)ロ)で、両者を分ける具体例が追記・修正されました。
現行の要領は、外部の事業者が求職者情報の選別・加工や、求人者と求職者のやり取りの加工を事業として行う場合、職業紹介事業の許可等が必要だとしています。判断が AI を含むシステムによる自動処理でも、扱いは同じです。スカウト文面については、次の2つの例が載っています。
外部の事業者が行うこと | 要領の扱い |
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どの求職者にも共通の定型文でスカウトを送る。依頼内容と求人情報に、宛名や形式的な挨拶文だけを足す | 意思疎通の加工に当たらない(例4-3) |
求職者の登録情報に応じて「今までの職歴等を踏まえると、月額○○万円の給与額で採用される可能性がある」等の文言を付す | 意思疎通の加工に当たる(例4-4) |
出所:厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第1 職業紹介事業の概要(令和8年9月14日適用)4(4)ロ。
スカウトの送信を外部に任せるときは、依頼先が許可を持つ職業紹介事業者か、そうでなければ文面を誰の判断で書き換えるのかを契約の前に確かめておくのが安全です。外部に任せるときの委託募集の線は、RPOとは?委託できる業務と職業安定法の3本の線で扱っています。
依頼先の許可と実績は、人材サービス総合サイトで確かめられる
有料職業紹介事業の許可は、厚生労働省の人材サービス総合サイトで事業者名から検索すれば確かめられます。有料職業紹介事業者の側にも、職業安定法第32条の16第3項に基づき、同サイトへ次の情報を載せることが義務づけられた形です。
- 紹介で就職した人の数と、そのうち期間の定めのない雇用(無期雇用)で就職した人の数
- 無期雇用で就職した人のうち、就職から6か月以内に離職した人の数(解雇を除く)
- 無期雇用で就職した人のうち、上の離職に当たるかどうかが明らかでない人の数
- 手数料に関する事項
- 返戻金に関する事項
出所:厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第9 職業紹介事業の運営6(情報提供)。
6か月以内の離職者数は、紹介の質を比べる材料です。複数の会社を比べるときは、無期雇用で就職した人の数に対する6か月以内の離職者数の割合で見ておくと、規模の違う会社でも並べられます。
自社で声をかける引き抜きは、労働者の募集で原則自由
自社の経営者や社員が、他社で働く人に直接声をかけて転職を勧める、いわゆる引き抜きは、職業安定法上の「労働者の募集」に当たり、同法の許可や届出は原則不要です(建設労働者の募集は、建設労働者の雇用の改善等に関する法律に基づく届出が要る場合があります)。厚生労働省の「募集・求人業務取扱要領」(令和7年6月)は、募集主が自ら、または社員に指示して直接応募を勧誘する「直接募集」を、原則として自由に行えるものとしています。インターネット等を使う募集は「文書募集」として扱われ、こちらも原則自由です。
ヘッドハンティングと引き抜きは、第三者が間に入るかどうかで分かれます。項目ごとに並べると、次の表のようになります。
項目 | ヘッドハンティング | 自社による引き抜き |
|---|
声をかける人 | ヘッドハンター(第三者) | 自社の経営者・社員 |
法律上の扱い | 有料職業紹介 | 労働者の募集(直接募集・文書募集) |
社名を伝える時期 | 候補者の関心を確かめてから伝えられる | 最初の接触で伝わる |
外部への費用 | 各社の手数料表による手数料 | 生じない(社内の工数はかかる) |
向く場面 | 候補者が特定できていない、社名を伏せて進めたい | 候補者が特定できていて、自社に接点がある |
出所:厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」(令和8年9月14日適用)・「募集・求人業務取扱要領」(令和7年6月)をもとにOffers作成。
第三者に報酬を払って勧誘を任せる場合は、委託募集として許可が必要です(職業安定法第36条第1項)。ただし同じ要領は、許可を受けた人材スカウト型の職業紹介事業者に任せる場合は求人の申込みとみなし、委託募集の許可は基本的に不要としています。
引き抜きで主に問題になるのは、前職の秘密と契約
候補者に転職を勧めること自体は、原則として違法になりません。日本国憲法第22条第1項が職業選択の自由を保障しており、候補者が転職を決めるのは本人の自由です。問題になるのは主に、候補者が前職の営業秘密を持ち込む場面と、候補者が前職と結んだ競業避止義務の場面です。ただし、引き抜きの方法が社会的相当性を超える場合は、これとは別に責任を問われることがあります。
前職の営業秘密を受け取ると、受け入れた企業も責任を問われうる
候補者が前職の秘密保持義務に反して顧客情報や技術情報を持ち込めば、受け入れた企業も差止めや損害賠償を求められる可能性があります。不正競争防止法が、不正に開示された営業秘密だと知りながら、または重大な過失で知らずに取得・使用する行為を「不正競争」と定めているためです。取得の時点で知らなくても、後から不正な開示の経緯を知った(または重大な過失で知らなかった)のに使い続けたり開示したりすれば、同法第2条第1項第9号の不正競争に当たります。
条文 | 定めていること |
|---|
不正競争防止法第2条第1項第8号 | 営業秘密の不正な開示であること、またはそれが間にあったことを知って、もしくは重大な過失で知らずに営業秘密を取得し、使用・開示する行為は不正競争に当たる |
同法第2条第1項第9号 | 取得した後に、営業秘密の不正な開示があったこと、またはそれが間にあったことを知って、もしくは重大な過失で知らずに、その営業秘密を使用・開示する行為も不正競争に当たる |
同法第2条第6項 | 営業秘密とは、秘密として管理され、事業活動に有用で、公然と知られていない技術上または営業上の情報をいう |
同法第3条 | 不正競争で営業上の利益を侵害された者は、侵害の停止または予防を請求できる |
同法第4条 | 故意または過失で不正競争を行い、他人の営業上の利益を侵害した者は、生じた損害を賠償する |
出所:e-Gov 法令検索「不正競争防止法」(平成5年法律第47号)。
顧客名簿や製造方法、価格表などが、営業秘密の典型例です。
経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」(最終改訂:令和6年2月)は、転職者を受け入れるときの対策を3つの場面に分けています。
場面 | 対策 |
|---|
採用の前 | 転職者が前職に対して負う秘密保持義務・競業避止義務の有無と内容を確認する |
採用のとき | 前職の秘密情報を持ち込まない旨の誓約書を取得するなど |
採用の後 | 前職の情報が社内に混ざっていないかを管理する |
出所:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(最終改訂:令和6年2月)第5章 5-2(1)。
同ハンドブックは、同業他社からの転職者や特別な技術を持つ転職者を受け入れるときは、特に他社の情報が混入しないよう意識した対応が重要だと述べています。同業から経営幹部や専門職をヘッドハンティングで迎えるときが、まさにこの場面です。
候補者の競業避止義務の有効性は、6つの観点で判断される
候補者が前職と競業避止義務の契約を結んでいても、その契約が常に有効とは限らず、争いになれば裁判で個別に判断されるものです。経済産業省の同ハンドブックの参考資料5「競業避止義務契約の有効性について」は、50以上の判例をもとに、判断のポイントを6つに整理しています。
# | 判断の観点 |
|---|
1 | 守るべき企業の利益があるか |
2 | 従業員の地位が、競業避止義務を課す必要がある立場か |
3 | 地域的な限定があるか |
4 | 競業避止義務の存続期間 |
5 | 禁止される競業行為の範囲 |
6 | 代償措置が講じられているか |
出所:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」参考資料5「競業避止義務契約の有効性について」。
同資料は、退職後の競業避止義務は職業選択の自由を侵害しうることなどから、制限的に解されていると説明しています。契約があるからといって、採用を諦める必要はないということです。同業から経営幹部を迎える場合は、内定の前に候補者本人に契約の中身を確かめてもらい、入社後の担当範囲をそれに合わせて決めておくと、紛争を避けやすくなります。
ヘッドハンティングの手数料は、各社が届け出た手数料表で決まる
有料職業紹介の手数料は、2種類に分かれます。法定の上限がある上限制手数料(原則として支払われた賃金額の11%、免税事業者は10.3%)と、各社が厚生労働大臣に届け出た手数料表で決まる届出制手数料です(厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第6 手数料)。ヘッドハンティングの料金を決めているのは、ほぼ届出制の側です。
厚生労働省の「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)では、有料職業紹介の手数料合計983,454,157千円のうち、届出制手数料が980,821,781千円で99.7%を占めました(割合はOffersが算出)。上限制手数料の上限(原則11%)は、見積もりが高いか安いかを測る物差しになりません。
契約の前には、職業安定法第32条の13に基づいて、手数料と返戻金制度の明示を受けてください。着手金と成功報酬の組み合わせや役員クラスの手数料の実額はヘッドハンティングとは?仕組み・費用と会社の選び方に、スカウトとの費用の比べ方はスカウトとヘッドハンティングの違い、費用と使い分けにまとめています。
ヘッドハンティングの流れと、企業側が準備すること
ヘッドハンティングは、契約、候補者の探索と打診、面談と条件交渉、入社の4段階です。企業側の準備が特に要るのは、最初の契約と、面談・条件交渉の段階です。
段階 | ヘッドハンターが行うこと | 企業側が準備すること |
|---|
1. 契約 | 人物像のヒアリング、提案、手数料と返戻金の明示 | 任せる役割・権限・報酬の幅を決める。許可と手数料表を確かめる |
2. 探索と打診 | 候補者の特定、転職の打診 | 社名を明かす時期を決める。候補者に伝える事業の課題と役割の裁量を渡す |
3. 面談と条件交渉 | 面談の設定、条件のすり合わせ | 経営陣が面談に出る。前職の秘密保持義務・競業避止義務を確かめる |
4. 入社 | 入社日までの連絡、入社後の確認 | 誓約書を取り、受け入れ部署と最初の担当範囲を決める |
候補者は転職活動をしていないため、最初の打診から入社までに時間がかかります。探索と打診の段階でヘッドハンターが候補者に伝えられる中身は、企業が渡す材料が上限です。事業の課題と、入社後に任せる裁量を具体的に書き出しておくと、候補者が打診を受けた段階で判断できる材料が増えます。
経営者や取締役を社外から迎える場合は、雇用ではなく委任の契約になる場合もあります。その場合の進め方は、経営者を人材紹介で探す方法と契約の注意点が詳しいです。
ヘッドハンティングが向く場面と、向かない場面
ヘッドハンティングが向くのは、求める人物像が明確で、その人が転職市場に出ていない可能性が高い場面です。経営幹部、事業責任者、希少な専門職の採用が当てはまります。社名を伏せたまま候補者の関心を確かめたいときにも使えます。
向かないのは、次の3つの場面です。
- 人物像が固まっていない。探す基準が定まらず、候補者の提示と見送りを繰り返すことになる
- 数週間のうちに入社してほしい。探索と打診に時間がかかるため、登録型の人材紹介や求人広告のほうが早い
- 同じ要件で何人も採用したい。1人ずつ探して口説く手法なので、1人あたりの費用が下がりにくい
候補者が特定できていて、自社に接点のある人がいるなら、自社で直接声をかけるほうが外部への費用はかかりません。その場合も、前職の営業秘密と競業避止義務の確認は、ヘッドハンティングと同じように必要です。
採用でヘッドハンティングを使う前に確かめる順番
採用でヘッドハンティングを使う前に確かめるのは、依頼先の許可、自社で声をかける形との比較、候補者の前職との関係の3つです。事業として行うヘッドハンティングは職業紹介に当たり、依頼先には有料職業紹介事業の許可が要ります。許可と6か月以内の離職者数は、人材サービス総合サイトで確認できる情報です。
自社で直接声をかける引き抜きは労働者の募集として原則自由ですが、外部に報酬を払って勧誘を任せると委託募集の許可が問題になります。どちらの経路でも、候補者が前職の営業秘密を持ち込まないことと、競業避止義務の中身を、内定の前に確かめておくことが欠かせません。手数料は各社の手数料表で決まるので、法定上限ではなく明示された手数料表と返戻金制度で比べてください。