目次
社内で高いパフォーマンスや成果を上げている社員をモデルとし、自社の成長に必要な要素を学ぶ『コンピテンシー』の考え方が、業界・業種を問わず広まっています。エンジニアの評価・育成にも役立つコンピテンシーモデルの構築手順やポイントを解説します。
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コンピテンシーモデルとは?基本的な考え方
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(出典)https://unsplash.com/
コンピテンシーモデルとは、自社で優れた結果を残している社員や、理想とする社員の行動特性を明らかにして、人材教育に生かす手法です。まずは『コンピテンシー』とは何か、基本的なところから押さえておきましょう。
そもそも「コンピテンシー」とは?
コンピテンシーとは、社内で高いパフォーマンスや成果を上げている人材に、共通する行動特性を指します。仕事で安定した結果を残している社員の行動パターンや考え方、ノウハウなどを参考にして、自社に必要な行動特性を明らかにすることで、組織全体の生産性アップを目指す考え方として知られています。
たとえ同じ業務をこなしていても、高い生産性を持つ社員と、そうではない社員がいるものです。コンピテンシーは、社員の中でもとりわけよいパフォーマンスを発揮している社員を選別します。その行動特性を分析・把握し、他の社員の指針にすることで、組織全体を成長させるのが目的です。
スキルとコンピテンシーとの違い
コンピテンシーを考える上で、まず押さえておきたいのはスキルとの違いです。スキルは単純な技術や能力のことで、それまでの学習や訓練によって培ったものです。エンジニアの場合は、使用できるプログラミング言語や、資料作成能力などが挙げられるでしょう。
一方、コンピテンシーは個人の行動特性や考え方などを指します。本人が意識しているか否かにかかわらず、実際の行動として表れるものです。たとえ優秀なスキルを有していても、それが行動として示されなければ、コンピテンシーとはみなされません。実際の成果やパフォーマンスとして発揮される必要があります。
コンピテンシーの概念を実務に落とし込んだモデル
コンピテンシーモデルは、コンピテンシーの概念を実務に落とし込んだモデルです。
企業によって設定すべきコンピテンシーは変わってくるので、モデルも企業ごとに最適な形は異なります。行動特性の明確化においても、決まった評価基準や評価項目があるわけではなく、企業ごとに選定の方法を模索しなければいけません。
どういった選び方をするにせよ、自社に必要なコンピテンシーは何か慎重に洗い出し、組織のパフォーマンスを上げるモデルを作成する必要があります。一般的なコンピテンシーモデルの構築方法に関しては、後述します。
コンピテンシーが注目されるようになった理由
コンピテンシーの考え方は、もともと1970年代のアメリカで誕生したといわれています。日本では1990年代から徐々に知られるようになり、いわゆる成果主義(成果能力主義)の導入とともに広まっています。
当時から従来の年功序列や学歴偏重の考え方から脱却を図る企業が増える中で、社員一人一人の生産性の向上が求められるようになりました。そこで、ハイパフォーマンスな社員の行動特性を参考にする、コンピテンシーの考え方が注目されるようになった経緯があります。
近年はコンピテンシーの考え方も一般化してきており、エンジニアの評価・育成を含めて、コンピテンシーモデルを導入する企業が増えています。
コンピテンシーモデルの3類型
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(出典)https://unsplash.com/
上記のように、企業によって適したコンピテンシーモデルは変わってきます。ただし一般的には、以下の3類型のいずれかを選択するケースがほとんどなので、それぞれの特徴を押さえておきましょう。
実在型
実在型は、実際に社内で高いパフォーマンスを発揮している見本的な社員をベースに、モデルを設計する方法です。リアルタイムで活躍している社員の行動特性を参考にするため、現実的で周囲の納得感を得やすいのがメリットです。
ただし、コンピテンシーに設定した行動特性が、他の社員にとって再現が困難な場合も考えられます。人によって参考にしやすい特性と、そうではないものがあるので、全体のバランスを考えてコンピテンシーを検討することが重要です。
理想型
現時点では実在していなくても、自社の求める理想的な人物像をベースとして、コンピテンシーモデルを設計する方法です。自社の実現したい価値観やビジョン、現状の事業戦略から必要な人材の条件を洗い出し、モデルとして落とし込むわけです。
社内に、コンピテンシーとして設定したい特性を持つ社員がいない場合や、企業の在り方を大きく転換し、社員に必要な技能を刷新したい場合などに適しています。しかし、理想的なコンピテンシーを設定した結果、その基準を満たせる社員が出て来ない可能性があるので、達成可能なレベルに収めることが大事です。
ハイブリッド型
ハイブリッド型は、上記の実在型モデルと理想型モデルを組み合わせて設計する方法です。実在の社員をベースにしつつも、自社の理想を取り入れた形でコンピテンシーを設定します。初めに優秀な結果を残している社員の行動特性を分析・把握した上で、そこに理想型の要素を組み込む形です。
両者のバランスを取った手法であり、コンピテンシーモデルの中で最も優れていると評価される向きもあります。ただし他のモデルと同様、設定したコンピテンシーに全ての社員が対応できるとは限らないため、定期的な見直しとモデルの改善も求められます。
コンピテンシーモデルの構築手順
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(出典)https://unsplash.com/
それでは、一般的なコンピテンシーモデルの構築手順をみていきましょう。以下の流れを参考にしつつも、自社のニーズや環境に合わせて、適したモデルの設計プロセスを模索することが重要です。
モデルの方針や目的の設定
まずは事前準備として、コンピテンシーモデルを作成する目的や方針、活用法などを明確にする必要があります。経営方針や事業戦略、人材戦略などの実現を前提とした上で、何のためにモデルを設計するのか、どの組織や部門・部署、チームを対象とするのかなど、全体の方針を定めましょう。
全体の方針を決めることで、いつまでに何をすべきか、モデルの設計に必要な人材は誰かなど、具体的なところを決められるようになります。プロジェクト責任者は完了予定時期なども、明らかにしておきましょう。
ハイパフォーマーの調査・選定
全体の方針や計画を決めたら、コンピテンシーとして設定するハイパフォーマーの調査や選定を行います。理想型のモデルを設計する場合は、どういった社員を理想とするか、人事部門やマネジメント層を中心に、現場の状況をよく調査した上で決める必要があります。
実在型モデルやハイブリッド型モデルの場合は、社員へのヒアリングやインタビュー、アンケート調査なども実施した上で、生産性向上のためにどういった技能が必要なのか、それを体現している社員は誰かを見極めましょう。
行動特性の分析・明確化
調査結果をもとに、コンピテンシーに設定する行動特性の洗い出しをしましょう。選定したハイパフォーマーに共通する特性や強み、考え方の傾向などを導き出し、具体的な要素に落とし込みます。すでに説明したように、現実離れした特性にしてしまうと、ほとんどの社員が基準を達成できなくなるので、注意しなければいけません。
また、実際の社員の特性をモデル化した場合にも、ほとんどの社員に向かない要素をコンピテンシーに設定しても意味がありません。多くの社員が達成可能なものを選ぶ必要があります。
レベル分けと評価シートの作成
コンピテンシーモデルでは評価の対象となる社員が、コンピテンシーをどの程度達成しているかを測るため、項目によるレベル分けをすることが大事です。レベル別に達成すべき要素を具体的に決めておき、社員がどの程度達成できたかを評価の基準にする方法で、採用面接における合格基準としても役立ちます。
レベルごとに具体的な評価項目を設定したら、人事担当者や各部門の管理者が評価しやすいように、コンピテンシー評価シートを作成しておくとよいでしょう。評価項目と評価軸、評価レベルの3つの要素を盛り込み、テンプレート化しておくと、評価すべき項目が変わっても対応しやすいのでおすすめです。
エンジニアに有効なコンピテンシー項目は?
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エンジニアをはじめとした技術職の場合でも、基本的には他の職種と同様、ハイパフォーマーの特性を分析し、何が異なる結果につながっているか明らかにすることが重要です。
分析の方法はさまざまですが、有名な考え方として、コンピテンシーディクショナリーと呼ばれる6領域を基準に設定する方法があります。
コンピテンシーの6領域を参考にする
コンピテンシーをモデル化する際に役立つ考え方として、コンピテンシーディクショナリーがあります。これはコンピテンシーを次の6つの領域を軸として、具体的な項目を分類・設定する方法です。
- 達成・行動:達成志向、正確性への関心、イニシアチブ、情報収集などの項目
- 援助・対人支援:対人理解・顧客支援志向などの項目
- インパクト・対人影響力:インパクト・影響力、組織感覚、関係構築などの項目
- 管理領域:他者育成、指導、チームワークと協力、リーダーシップなどの項目
- 知的領域:分析的思考、概念的思考、技術的・専門職的・管理的専門性などの項目
- 個人の効果性:自己管理、自信、柔軟性、組織コミットメントなどの項目
これらの分類はあらゆる業種に応用できるので、エンジニアのコンピテンシーの設定でも活用するとよいでしょう。
エンジニアのコンピテンシー項目の例
エンジニアのコンピテンシー項目の例としては、次のものが挙げられます。あくまでも一例なので、社内のエンジニアへのインタビューやアンケート調査などを通じて、自社に合った項目を設定する必要があります。
- 専門的学識:エンジニアとしての業務に必要な高度な知識を理解し、業務に応用できる
- 問題分析:複数の要因が絡み合った複雑な問題を正しく把握し、解決に向けて必要な調査・分析ができる
- 問題解決:複雑な問題の分析を通じて、適切な解決策を提示・実行できる
- トラブル対応:想定外の問題が発生した際、原因を素早く特定し、必要な対応が取れる
- マネジメント:開発部門の予算や人員、スケジュール、コストなどを適正に管理できる
他にも、さまざまなコンピテンシー項目が考えられるので、優秀なエンジニアの特性を分析して、評価シートを作成してみましょう。
コンピテンシーモデルの注意点
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コンピテンシーモデルはベースにすべき行動特性の分析・把握や、評価シートの作成などに時間がかかるので、十分な期間を設けて設定する必要があります。さらに、初めから完璧なモデルを作成するのは困難であり、ビジネス環境も常に変化しているため、定期的に項目の見直しと改善が求められます。
定期的に項目の見直しと改善を重ねる
作成したモデルは定期的に見直しをして、評価項目を調整しましょう。その時点でのビジネス環境や社内の状況により、模範とすべき行動特性は変わるケースがあります。
また、当初のコンピテンシーが通用しなくなる可能性もあるので、事前にコンピテンシーを変更する条件を決めておき、状況に応じて改善を重ねることが大事です。特に、事業戦略を大幅に変更する際には、モデル自体の再検討も必要でしょう。常に、現場の実態に即した基準を設けなければいけません。
エンジニアの評価にコンピテンシーを活用する
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エンジニアの評価にも活用できるコンピテンシーモデルとは何か、基本的なところを解説しました。コンピテンシーモデルは実在型・理想型・ハイブリッド型のいずれかを基準に作成するのが一般的ですが、まずはモデルを作成する目的を明確にして、対象範囲を定めることが重要です。
また、理想を追求するあまり、現実離れしたコンピテンシーを設定してしまうと、多くの社員が達成できない可能性があります。
実際の社員の特性をベンチマークにする場合であっても、他の社員が達成可能なレベルでバランスを取るように意識しなければいけません。作成したモデルも定期的に見直しと改善を重ね、常に実態に即した評価ができるように工夫しましょう。