人事企画の定義と担当する範囲
人事企画とは、等級(職群・資格)制度、人事評価、職務分析・職務評価といった人事制度を設計し、運用まで受け持つ仕事です。厚生労働省の職業能力評価基準は、人事企画の能力を「職群・資格制度、人事評価、職務分析・職務評価等の各種人事制度の設計及び運用を行う能力」と定めています(厚生労働省 職業能力評価基準(事務系職種)の能力ユニット「人事企画」・厚生労働省「職業能力評価基準(事務系職種)」)。
職業能力評価基準は、仕事に必要な知識と技術・技能に、成果につながる職務行動の例を加えて、業種別・職種別に整理した公的な基準です(厚生労働省「職業能力評価基準について」)。
事務系職種の基準は平成16年に策定され、平成20年3月と平成31年3月に改訂されました。人事企画はその中で職務「人事・人材開発」に属する能力ユニットの1つに当たり、雇用管理・賃金管理・人材開発のユニットと並んでいます。
人事企画・雇用管理・賃金管理・人材開発の分担
中央職業能力開発協会のビジネス・キャリア検定「2級 人事・人材開発」の試験範囲も、人事企画を雇用管理・賃金管理・人材開発と分けて扱っています。人事企画が受け持つのは制度の枠組みで、採用や配置を回す雇用管理、給与と人件費を扱う賃金管理、研修を組む人材開発とは区分が別です。
区分 | 試験範囲に挙がる主な項目 |
|---|
人事企画 | 人と組織の理解/職群・資格制度/人事評価/職務分析・職務評価/モチベーションとモラール向上・企業文化改革 |
雇用管理 | 人員計画の種類・内容/募集・採用/配置・異動と昇進/出向・転籍/表彰・懲戒/退職・解雇/雇用調整/人事相談・トラブル対応 |
賃金管理 | 賃金・総額人件費管理/賃金制度の設計と運用/退職給付制度の設計と運営/海外駐在員の賃金管理 |
人材開発 | 人材開発の意義/人材開発の推進/OJT(職場内教育)/Off-JT(職場外教育)/自己啓発支援 |
出典:中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験 試験範囲 2級 人事・人材開発」(令和2年4月)
人事担当が少ない会社では、同じ人が4つの区分を兼ねることもあります。その場合も、制度の設計に充てる時間を毎月の手続きとは別に確保しておくと、目の前の作業に押されて制度の見直しが止まる事態を避けやすくなります。
人事労務・HRBP・経営企画との違い
人事企画は全社に共通する人事制度の枠組みを設計する仕事で、手続きを正確に回す人事労務、事業部の近くで人と組織の課題を解くHRBP(HRビジネスパートナー)、会社全体の戦略と予算を組み立てる経営企画とは、受け持つ範囲が異なる仕事です。
役割 | 主な受け持ち | 人事企画との接点 |
|---|
人事労務 | 給与計算、社会保険の手続き、勤怠の管理、就業規則の運用 | 新しい制度を賃金の計算や規程に反映するとき |
HRBP | 事業部ごとの組織と人の課題を、事業の責任者と一緒に解く | 現場で起きた評価や配置の不具合を、制度の見直しの材料として戻す |
経営企画 | 中期経営計画、予算、全社の重点施策 | 要員数と人件費の枠を中期経営計画とそろえる |
職業能力評価基準でも、労務管理は職務「人事・人材開発」とは別の職務として置かれ、労使関係・就業管理・安全衛生・福利厚生の能力ユニットを持ちます。人事企画が決めた制度を日々の運用に乗せるのは、労務管理の側の仕事です。
人事企画が企業の成長を支える3つの役割
人事企画が会社の成長に関わる道筋は、経営戦略に必要な人材の姿を言葉にすること、人事制度で社員の行動と処遇をそろえること、人材戦略を社外に説明できる形にすることの3つです。
経営戦略から必要な人材像を言葉にする
職業能力評価基準のレベル3(人事・人材開発部門のマネジャー)は、「経営戦略の実現に向けて必要な人材像を明確にし、各種制約条件を勘案しながら今後の人事・人材開発システムの方向性を企画立案している」ことを職務遂行の基準に挙げています。
新しい事業を立ち上げる、開発体制を内製に切り替えるといった経営の決定は、どの職種を何人、いつまでにそろえるかに置き換えて、はじめて人事の施策になります。置き換えた結果を落とし込む先が、要員計画と採用計画です。
計画の構成と立て方は、人事計画とは?構成する6つの計画と立て方で扱っています。
人事制度で社員の行動と処遇をそろえる
等級・評価・報酬の制度は、会社が社員にどんな行動を求め、それにどう報いるかを示す仕組みです。基準のレベル2は「昇進・昇格制度の目的を理解し、人事制度全体と整合した昇進・昇格制度の立案を行っている」ことを挙げ、制度どうしの整合まで人事企画の仕事に含めています。
等級の定義、評価の項目、報酬の決め方を別々に作ると、評価で高い点を取っても昇格につながらないといった食い違いが社員の目に見えてしまいます。評価制度の設計の要点は、人事評価とは?分布データで読む制度設計の要点が詳しい解説です。
人材戦略を社外に説明できる形にする
金融庁が令和8年2月20日に公布・施行した開示府令の改正で、有価証券報告書に「連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略」と、それを踏まえた従業員給与等の決定方針、提出会社の従業員の平均給与の対前年比増減率の記載が加わりました(金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正の公布について)。
適用は、令和8年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書等からです。
有価証券報告書を出す会社は、企業戦略と人材戦略のつながりと給与の決め方を、文章で社外へ示すことになりました。書く材料になるのは、人事企画が作る人材像・等級・報酬の方針です。改正後の有価証券報告書で各社が何を書いたかは、人的資本の事例、改正後の有報で10社が書いた給与と戦略で読めます。
人事企画の主な仕事内容
人事企画の仕事は、等級制度の設計、評価制度の設計と運用、昇進・昇格の仕組みづくり、職務分析・職務評価、従業員の意識調査(モラール・サーベイ)、制度の社内への説明の6つに分けると、何をいつ進めるかを決めやすくなります。
仕事 | 中身 | 成果物の例 |
|---|
等級(職群・資格)制度の設計 | 職群コース体系・等級制度・専門職制度を立案する | 等級の定義書 |
人事評価制度の設計と運用 | 評価の仕組みを作り、各種のアセスメントや評価者訓練の運営計画を立てる | 評価シート、評価者向けの手引き |
昇進・昇格の仕組みづくり | 人事制度全体と整合する昇進・昇格制度を立案する | 昇格の要件 |
職務分析・職務評価 | 職務の中身と大きさを調べて整理する | 職務記述書 |
モラール・サーベイ | 従業員の意識調査を企画・実行し、結果を分析する | 調査結果の報告 |
制度の社内への説明 | 制度の趣旨と運用のしかたを社員に伝える | 社員向けの説明資料 |
出典:厚生労働省 職業能力評価基準「人事企画」レベル2をもとに編集部が作成
制度は作って終わりではありません。同じ基準のレベル2は、人事制度の運用に関する疑問や質問に、労働法令や社内規定を踏まえて判断することも人事企画の職務に挙げています。
採用方針を決める場面での人事企画の役割
採用の実務は雇用管理の区分に入るものの、どの職種を、どの等級と報酬の幅で迎えるかを決める段階には人事企画が関わります。等級と報酬の枠が先に決まっていないと、求人票に書く年収や役割が募集ごとに変わり、社内の処遇との釣り合いも崩れやすくなるためです。
エンジニアのように社外の年収の相場が動きやすい職種では、自社の求人や採用ページが候補者からどう見えるかを、等級・報酬の方針と並べて確かめておくと、制度と募集のずれに早く気づけます。
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人事企画に必要なスキルと知識
人事企画に求められる力は、職業能力評価基準のレベルが上がるにつれて、制度を正しく運用する力から、制度を立案する力、経営戦略から人事戦略を組み立てる力へと移っていきます。
レベル別に見る人事企画の職務遂行の基準
厚生労働省が公開する「人事企画」の能力ユニットはレベル1とレベル2の2つで、レベル3・4は、スペシャリスト向けの「人事・人材開発専門」とマネジャー向けの「人事・人材開発マネジメント」のユニットが受け持ちます。表のレベル3・4は、マネジャー向けの基準からの抜粋です。
レベル | 能力ユニット | 職務遂行の基準(抜粋) |
|---|
レベル1 スタッフ | 人事企画 | 従業員の昇進、賃金決定等に資するための基本的な統計資料を的確に作成している。 |
レベル2 シニア・スタッフ | 人事企画 | 人事制度に関する専門的知識を有し、上位方針を踏まえて職群コース体系、等級制度、専門職制度等の立案を行っている。 |
レベル3 マネージャー | 人事・人材開発マネジメント | 経営層、労働組合、関係部署など関係者の意志統一を図りながら、資格等級制度、賃金制度、評価制度など実効性のある人事諸制度の設計を行っている。 |
レベル4 シニア・マネージャー | 人事・人材開発マネジメント | 会社の経営戦略や様々な制約条件を総合的に勘案しながら、人事戦略を策定し、その達成に向けた道筋を部下に示している。 |
出典:厚生労働省 職業能力評価基準(事務系職種)の能力ユニット「人事企画」「人事・人材開発マネジメント」
数字で人事制度を説明する力
人事企画の入口で求められるのは、昇進や賃金の決定に使う統計資料を作る力です。レベル4では「現行の人事諸制度を総点検し、人件費を合理的水準に抑制しつつ長期的に社員のモチベーションを高めるような仕掛けを考え」ることが挙がり、人件費と社員の意欲を同じ表の上で比べる力へと広がります。
関係者の意見を調整する力
制度を変えると、評価や処遇が変わる社員が必ず出ます。レベル3は「人事評価結果の調整や人材開発諸制度の推進等に関し、各部門の関係者の主張を聞きながら円滑に意見調整を行っている」ことを挙げ、レベル2が挙げるのは、社員向けの説明資料を的確に作ることです。
労働法令と人事の動向を追う力
レベル2の必要な知識には「労働法令など関係法令の内容及び改正動向」が入っています。等級や評価の見直しは就業規則や賃金規程の変更につながるため、法令の改正と他社の人事制度の動向を追い続けることも、人事企画の仕事の一部です。
スキルの目安に使えるビジネス・キャリア検定
人事企画の知識がどこまで身についているかを測る目安には、中央職業能力開発協会のビジネス・キャリア検定があります。同協会は、この検定が厚生労働省の定める職業能力評価基準に準拠していると案内しています(中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験とは」)。
「人事・人材開発」の2級が受験対象として想定するのは、実務経験5年程度で、課長やマネージャー相当職を目指す人です。社内で担当者を育てるときは、試験範囲の人事企画の項目を、担当者がこれまでに経験した業務と照らし合わせる一覧として使えます。
人事企画を任せる人の要件の決め方
人事企画の担当者を社内で育てるときも中途採用で迎えるときも、職業能力評価基準のどのレベルの職務を任せるかを先に決め、求める経験を職務遂行の基準の言葉で書くと、期待する役割の食い違いを減らせます。
任せたい仕事 | 目安のレベル | 求める経験の書き方の例 |
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評価の集計や昇格の資料づくり | レベル1 | 昇進・賃金の決定に使う統計資料の作成 |
等級制度・評価制度の改定 | レベル2 | 等級制度や評価制度の立案から、社員向けの説明資料の作成まで |
人事制度の全面的な見直し | レベル3 | 経営層や関係部署の意見をまとめながら、等級・賃金・評価の制度を設計した経験 |
人事戦略の策定 | レベル4 | 経営戦略から人事戦略を立て、人件費と社員の意欲の両面で制度を点検した経験 |
厚生労働省の案内では、職業能力評価基準は業界内の標準的な基準で、各企業が適宜カスタマイズして使うものという位置づけです。表の言葉はそのまま使わず、自社の等級や職務の呼び方に合わせて書き換えるのが前提です。
人事戦略の策定まで任せる人を経営陣に迎える場合は、CHRO(最高人事責任者)採用の進め方|候補者の要件と会社法上の選任手続が、求める要件の決め方を扱っています。
人事企画の役割の要点
人事企画は、等級・評価・職務分析といった人事制度の設計と運用を受け持ち、経営戦略を社員の処遇と行動に結びつける仕事です。
職業能力評価基準は、人事企画とマネジャー向けのユニットを合わせて、人事企画に求める力を統計資料の作成から制度の立案、関係者の意見調整、人事戦略の策定までの4つのレベルで示しています。2026年の開示府令の改正で、有価証券報告書を出す会社は人材戦略と給与の決め方を社外に説明することになり、その材料を作る人事企画は、経営により近い位置で働く仕事になりつつあります。