事例から借りられるのは、結果ではなく前提である
事例を読む目的は、成功した会社の手順をなぞることではありません。その会社が成果を出したときに何が揃っていたのかを取り出し、自社に同じものが揃うかを判定することです。
ダイレクトリクルーティングは、企業が人材データベースから候補者を選び、直接スカウトを送る採用手法です。手法そのものの定義と費用の全体像は、ダイレクトリクルーティングとはにまとめています。
この手法は、求人広告のように出稿すれば母集団が集まるものではありません。送信の手を動かし続けられるかどうかが結果を左右するため、同じサービスを使っても会社によって成果が大きく開きます。
だからこそ事例は、成果の大きさより前提条件のほうが読む価値を持ちます。採用担当が何人いたのか、送った相手をどう絞ったのか、返信が来たときに誰が対応したのか。ここが揃っていない会社が同じ手順をなぞっても、同じ結果にはなりません。
自社にその前提が揃っているかは、エンジニア採用力チェックで5つの指標から確かめられます。
公開された事例で最初に確かめるのは4点である
事例を自社に当てはめる前に、その記録が何を数えたものかを確かめます。確かめる観点は4つです。
観点 | 何を見るか | 見落とすとどうなるか |
|---|
雇用形態 | 成果が正社員の入社か、正社員以外の契約形態を含む合算か | 合算の人数を正社員の採用数として読み、必要な工数を小さく見積もる |
期間の起点 | 契約日か、運用を始めた日か、最初の送信日か | 準備期間が抜け落ち、立ち上がりまでの時間を短く見積もる |
母数 | 何通送って、何人と会って、何人が入社したのか | 率だけが残り、自社の送信量に置き換えられなくなる |
発言者 | 採用担当者本人か、支援側のまとめか | 現場の制約が落ちた理想形を、そのまま手順として受け取る |
この4点のうち、公開されている事例でいちばん欠けやすいのは母数です。返信率や承諾率だけが書かれていて、分母の送信通数が書かれていない記録は、自社の工数に置き換える手がかりを持ちません。
もうひとつ落ちやすいのが雇用形態です。エンジニアの採用では正社員以外の契約形態と正社員が同じ文脈で語られることがあり、合算した人数が採用実績として提示されることがあります。正社員の採用にかかる工数は、それらとは別物です。ここを混ぜた計画は初月から崩れていきます。
以降で並べる6社の記録は、いずれも正社員の入社を成果として公開しているものだけに絞っています。
Offersの導入事例は社名と期間つきで公開されている
株式会社overflowが運営するOffersの導入事例のうち、正社員の入社に至った6社の記録です。いずれも各社のページに社名・担当者名・期間が記載されているものです。
出所:Offers 導入事例(株式会社overflow・offers.jp の各社ページ・n=6・2026年9月21日時点)。
期間の幅は約1ヶ月から1年弱まで開いています。ただし起点は各社の公開表記のままで、契約日を起点にしたものと導入や利用開始を起点にしたものが混ざっているため、この幅をそのまま比較はできません。
株式会社コアソフトは応募13件から2名の内定承諾に至った
プライム顧客の元請けとなる受託開発と、大手SIerの一次請けとなるSES(システムエンジニアリングサービス)事業を展開する企業です。プロジェクトを牽引するPM(プロジェクトマネージャー)・PL(プロジェクトリーダー)・テックリードといったリーダー層の母集団を、これから継続的に作っていく段階にありました。
人事グループマネージャーの森山智穂氏によると、導入から8ヵ月でハイクラス人材2名の採用に至っています。内訳は約13件の応募があり、そのなかから要件に合致した3名と面接をおこない、うち2名が内定を承諾したというものです。入社先は受託開発チームのテックリードとSESチームのPLで、それぞれ1名となっています。
出所:Offers 導入事例「株式会社コアソフト」(株式会社overflow・2026年9月21日時点)。
この事例の読みどころは、採用活動を森山氏1人で担当していた点です。応募13件という数字は、専任チームを置かずに到達できた水準を示しています。
HapInS株式会社は面談40〜50名を経て正社員2名を採用した
2025年11月頃にOffersを導入し、約半年で受託開発事業部の正社員2名を採用しています。佐藤氏によると、AIによるスカウト文面の改善と、転職意欲を7段階で捉えるOffers独自のキャリアドリフトモデルにもとづくストーリースカウトを活用した結果、40〜50名ほどと面談できたとのことです。
出所:Offers 導入事例「HapInS株式会社」(株式会社overflow・2026年9月21日時点)。
面談40〜50名から正社員2名という比は、面談を重ねる前提で計画を立てる必要があることを示しています。採用した2名は幅広い課題解決を担うジェネラリスト寄りの人材で、うち1名はデザイナーでした。
株式会社QuackShiftは半年で約45名と面談し3ヶ月で1名が決まった
取締役の小村和輝氏の説明では、導入から3ヶ月で1名の入社が決まり、半年間で約45名の面談対応ができています。入社したブーゾ アモス氏の肩書きはプロジェクトマネージャーです。
出所:Offers 導入事例「株式会社QuackShift」(株式会社overflow・2026年9月21日時点)。
ここで注目するのは、入社が決まった時点と面談数の時点が違うことです。3ヶ月で1名という速さだけを取り出すと、その裏で半年かけて約45名と会っている事実が落ちます。事例の期間は、成果が出た時点と運用を続けた期間の両方で読みます。
ベルベットジャパン株式会社は契約から約1ヶ月で入社に至った
AIとブロックチェーンを使ってリユース産業に取り組む企業です。代表取締役の原田大作氏によると、Offersを契約してから約1ヶ月で、直井雅一氏がリードエンジニアの役割で入社しています。
出所:Offers 導入事例「ベルベットジャパン株式会社」(株式会社overflow・2026年9月21日時点)。
この1ヶ月という数字は、候補者側の事情と重なった結果でもあります。直井氏は2〜3ヶ月前からOffersへ登録しており、他の転職サービスと並行して利用していました。相手がすでに動き始めていたところに、条件の合う求人が届いたということです。
短期間での入社は再現を狙って作れるものではありません。事例のなかでは、速い側の端を示す記録として読みます。
株式会社クリアは1年弱かけて即戦力の正社員採用に至った
SES事業を展開し、即戦力エンジニアの正社員採用を強化していました。人事部課長の飯塚陽矢氏は、利用開始から1年弱で当社が求める即戦力人材の正社員採用につながったと述べています。
出所:Offers 導入事例「株式会社クリア」(株式会社overflow・2026年9月21日時点)。
同社はスカウトを1件ずつ丁寧に送信する運用スタイルを取っていました。1年弱という期間は、1通あたりの精度を上げる運用を続けた場合の時間軸を示しています。
株式会社GRIは工数を体感で7割ほど減らしながら1名の入社予定に至った
Offersを導入してから半年弱で、1名の入社予定があると公開されています。入社予定者ははじめから正社員希望での応募でした。
古仙氏は、体感として採用業務における工数は70%ほど抑えられた印象だと述べています。数値は実測ではなく体感として語られているため、そのまま自社の削減率として当てにはできません。
出所:Offers 導入事例「株式会社GRI」(株式会社overflow・2026年9月21日時点)。
ただし方向としては読み取れます。送信先の選定と文面の作成を外部に預けた場合に、担当者の時間がどこに戻ってくるのかを示す記録です。運用を外部へ預ける形の詳細はAI RPOプランのとおりです。
6社の記録をまとめた資料は採用成功事例集からダウンロードできます。
事例の数字は、送った通数ではなく開かれた通数から動く
事例に出てくる面談数や採用数を自社に当てはめるには、その手前の段を知る必要があります。スカウトは送った時点では相手に届いていないからです。
Offers上で2025年9月から2026年8月までに企業から候補者へ送信されたスカウトを集計すると、次のようになります。
段階 | 割合(送信を100%として) |
|---|
送信 | 100% |
候補者が開いた | 60.3% |
承諾(話を聞くと返答) | 6.8% |
辞退の返答 | 11.5% |
出所:Offers スカウト送信データ(株式会社overflow 調べ・n=42,840・2025年9月〜2026年8月)。
送った4割は開かれないまま終わります。事例で語られる返信率や面談数は、この6割のなかで起きている話です。
開かれた分だけを分母に置くと、様子が変わります。
開かれたスカウトのその後 | 割合 |
|---|
承諾 | 11.3% |
辞退の返答 | 19.2% |
どちらの返答もない | 69.3% |
出所:Offers スカウト送信データ(株式会社overflow 調べ・n=25,816・2025年9月〜2026年8月)。
開いた人の7割は、承諾も辞退も返しません。文面を読んだうえで判断を保留しているということです。ここが、事例で語られる工夫がいちばん影響する場所になります。
開かれる速さも見ておきます。開かれたスカウトのうち、送信から24時間以内に開かれたものが46.7%、72時間以内が58.1%でした(同集計・n=25,816)。開かれるときは早く、時間が経つほど開かれにくくなります。
この分布から、事例を当てはめるときの目安が出ます。HapInSの40〜50名の面談、QuackShiftの約45名の面談という数字は、開封と承諾の段を通り抜けた先にある数字です。段階ごとの通過率をどう置くかは、採用の歩留まりで整理しています。
自社の送信がどの段で止まっているかが分からない場合は、エンジニア採用力チェックで現在地を測ってから事例に戻ると、当てはめる先が決まります。
利用企業の平均は、事例を読むときの物差しになる
個別の事例が速いのか遅いのかは、平均を知らないと判断できません。マイナビの調査に、ダイレクトリクルーティングを使った企業の段階別の数字があります。
段階 | ダイレクトリクルーティング | 全サービス平均 |
|---|
利用した | 37.3% | 28.3% |
応募者がでた | 27.9% | 17.5% |
面接を設定した | 25.3% | 14.8% |
内定を出した | 24.8% | 14.0% |
採用に繋がった | 23.4% | 13.0% |
採用到達率 | 62.7% | 42.1% |
出所:マイナビ「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」(2026年・n=1,500)。
採用到達率は、利用した企業のうち採用に繋がった企業の割合です。ダイレクトリクルーティングは62.7%で、全サービス平均の42.1%を大きく上回ります。これは、使った企業の6割強がダイレクトリクルーティング経由での採用に至っているという水準です。
段階ごとの移行率を見ると、詰まる場所がはっきりします。利用したところから応募者が出るまでが74.6%で、ここがいちばん落ちる段でした。同調査(n=1,500)によると、応募者が出たあとは面接設定90.9%、面接から内定97.9%、内定から採用94.4%で、いずれも9割台に乗っています。
つまり事例のなかで参考にすべきなのは、面接や内定の工夫ではなく、最初の反応を出すまでの工夫になります。前節のスカウトの実測が示していたのと同じ場所です。
規模の目安も押さえておきます。
指標 | 値 |
|---|
1社あたりの年間採用人数 | 平均3.65人(n=329) |
年間費用の実績 | 平均173.9万円(n=当該サービス利用者) |
年間費用の予算 | 平均223.9万円(同上) |
メイン利用者の満足度(満足計) | 84.3%(n=140) |
出所:マイナビ「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」(2026年)。
1社あたり年間3.65人という水準は、2024年の3.53人、2023年の2.61人から上がっています(同調査)。事例で5名や10名という数字を見たときは、平均を大きく上回る規模だと理解しておくと、自社の計画が現実的な範囲に収まります。
予算223.9万円に対して実績173.9万円という差も示唆的です。積んだ予算を使い切れていない企業があるということで、費用の上限より運用の手が制約になっていることを表します。専任の手を確保したい場合の選択肢が予算型リテーナー採用です。
職種と業種によって、事例が成立する確率は変わる
同じ手法でも、募集する職種によって結果は変わります。ダイレクトリクルーティングを利用した企業が広告費をかけた職種の構成は、次のとおりです。
職種 | 割合 |
|---|
営業 | 38.9% |
管理・事務 | 30.2% |
ITエンジニア | 27.1% |
企画・経営 | 25.9% |
AI技術者 | 20.2% |
クリエイティブ | 14.1% |
出所:マイナビ「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」(2026年・n=560)。
構成比だけを見ると営業が最多ですが、採用チャネルごとの比較では別の姿が出ます。同調査は、クリエイティブ・AI技術者・医薬や食品などの職種について、採用チャネルのなかでダイレクトリクルーティングが1位になると記しています。他のチャネルでは埋まりにくい職種が、この手法へ寄っているということです。
業種でも差が出ました。同調査によると、IT・通信・インターネットの企業では、ダイレクトリクルーティングで応募者が出た割合と面接設定に至った割合が、全体より10ポイント以上高くなっています。分母は回答者全員なので、利用率の高さを含んだ数字です。
この2つを合わせると、事例を選ぶ基準が出ます。自社と職種が近い事例を優先し、業種が離れている事例は手順ではなく考え方だけを借りるという読み方です。
前節までに並べた6社は、いずれもエンジニアやテックリードの採用でした。営業や管理部門の採用を検討している場合、面談から入社までの時間や候補者の反応は別の水準になると見ておきます。サービスごとの登録者の職種構成をどう確かめるかは、スカウト媒体の選び方で整理しています。
自社に当てはめる手順は、現在地の測定から始まる
事例を読んだあとにやることは、真似できそうな施策を選ぶことではありません。自社がいまどの段で止まっているかを先に測り、その段に効果のある部分だけを事例から取り出すことです。
手順は3つです。
- 直近3か月の送信数・開封数・返信数・面談数・入社数を数える
- 段ごとの移行率を出し、平均から落ちている段を1つ特定する
- 事例のなかから、その段に関係する記述だけを読み直す
たとえば送信数に対して開封が少ないなら、対象の選び方と件名の問題です。開封はあるのに返信が来ないなら、文面と提示条件の問題になります。面談まで進むのに入社が決まらないなら、選考基準と待遇の問題です。
この切り分けをしないまま事例をなぞると、詰まっていない段に手を入れることになります。6社の事例でも、コアソフトは応募を増やす段、HapInSは面談から先の段に時間を使っていました。
現在地の測定を自社だけで進めにくい場合は、エンジニア採用力チェックで5つの指標による採点を受けるところから始められます。採用計画そのものから相談する場合は、Offersの法人向けサービスをご覧ください。
事例が当てはまらない典型は3つある
最後に、事例をそのまま持ち込むと成立しない場面を整理します。
当てはまらない場面 | 何が違うのか | どうするか |
|---|
採用体制の規模が違う | 専任チームのある会社の送信量は、兼任1人では再現できない | 週あたりの送信可能数から逆算して目標を置き直す |
職種が違う | 登録者の厚みが職種ごとに違い、反応の出方が変わる | 同じ職種の事例に絞って読む |
期間の前提が違う | 3か月で決まった事例の裏に、半年分の面談があることがある | 成果が出た時点と運用を続けた期間を分けて読む |
3つに共通するのは、事例が結果だけを書いていて前提を書いていないと、読み手が自分の前提を当てはめてしまうことです。冒頭の4点(雇用形態・期間の起点・母数・発言者)を確かめる作業は、この取り違えを防ぐためにあります。
運用の手が確保できない場合の選択肢が、送信と選定の外部委託です。委託した場合の成果の型と期間はRPO導入事例14社に見る成果の型と期間にまとめており、サービスの内容はAI RPOプランと予算型リテーナー採用で確認できます。
この記事の要点
- 事例から借りるのは結果ではなく、成果が出たときに揃っていた前提である
- 公開された事例では、雇用形態・期間の起点・母数・発言者の4点を先に確かめる
- Offersの導入事例6社では、成果が出るまでの期間が約1ヶ月から1年弱まで開いている(起点は各社の表記のまま)
- スカウトは送信42,840通のうち開かれたのが60.3%で、事例の数字はこの先で起きている(株式会社overflow 調べ)
- 利用企業の採用到達率は62.7%、落ちる段は最初の反応が出るまでである(マイナビ・2026年)
- 自社の段ごとの移行率を測ってから、詰まっている段の記述だけを事例から読み直す
自社の現在地を測るところからであれば、エンジニア採用力チェックが最初の一歩になります。