採用費の勘定科目は費用の中身で選ぶ
採用費の勘定科目は、外部に払う手数料なら支払手数料、募集の広告なら広告宣伝費、移動の実費なら旅費交通費と、支出の中身で決めます。
税務では科目の名前ではなく支出の中身で扱いが決まります。国税庁は交際費等を「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」のために支出するものと定義しており、会食の費用を「採用費」の科目で記帳しても、交際費等に当たるかどうかの判定は変わりません(国税庁 タックスアンサー No.5265)。
費用ごとの勘定科目の早見表
採用で出てくる主な費用と、使う勘定科目は次のとおりです。右の列は「採用費」を独立科目にした会社がまとめる先です。
費用 | 主な勘定科目 | 「採用費」を設けた場合 | 押さえる点 |
|---|
人材紹介会社の成功報酬 | 支払手数料 | 採用費 | 入社が決まった期に計上する。返戻金の規定を契約で確かめる |
求人広告・求人媒体の掲載料 | 広告宣伝費 | 採用費 | 掲載期間が期末をまたぐ前払いは、翌期分を前払費用にする |
スカウトサービスの利用料 | 支払手数料 または 広告宣伝費 | 採用費 | 月額の利用料か、入社時の成果報酬かで計上する時期が変わる |
採用管理システムの月額料金 | 支払手数料 | 採用費 | 利用した月の費用にする |
応募者・内定者の交通費・宿泊費 | 旅費交通費 | 採用費 | 面接者と内定者で仕入税額控除の要件が違う |
会社説明会の会場費 | 賃借料 または 会議費 | 採用費 | 開催した期の費用にする |
採用パンフレット・採用サイトの制作費 | 広告宣伝費 | 採用費 | 期末に配り残したパンフレットは貯蔵品にする |
候補者・内定者との会食 | 交際費(1人10,000円以下は会議費など) | 交際費のまま | 交際費等から除く条件は人数あたりの金額と記録の5項目 |
内定者研修・入社後研修 | 研修費 | 採用教育費 | 入社前の研修と入社後の研修を分けて集計すると、採用と育成の費用を比べやすい |
社員紹介(リファラル)の報奨金 | 給料手当などの人件費の科目 | 人件費のまま | 外部に払う紹介料とは分けて扱う |
社員紹介の報奨金の支給基準と税務の扱いは、リファラル採用のコスト|内訳・他手法比較と税務で費目ごとに扱っています。
「採用費」「採用教育費」を独立科目か補助科目にする
採用費を独立した勘定科目にするか補助科目にするかの分かれ目は、採用にかかった総額を決算書の上で見せたいかどうかです。
「採用費」を独立科目にすると、損益計算書の販売費及び一般管理費の内訳に採用費が1行で出ます。人材紹介と求人広告の比重が大きく、採用への支出を毎期の決算で比べたい会社に向く形です。
補助科目にする場合は、決算書の科目は支払手数料・広告宣伝費のまま、元帳で「採用」の補助科目だけを集計します。決算書の科目を増やさずに、採用単価(採用費の総額÷採用人数)を出せます。
「採用教育費」は、採用の費用と入社後の研修費をまとめて扱う科目名です。どの形を選んでも、一度決めた科目は毎期同じにします。期ごとに科目を変えると、採用費の前年比較ができません。
採用費を含む年間の採用予算を組むときは、Offers のお役立ち資料にある「採用計画テンプレート」をたたき台に使えます。採用戦略の立案から予算配分まで、数値とモデルケースを盛り込んだ Excel のテンプレートです。
人材紹介の成功報酬は支払手数料で、入社が決まった期に計上する
人材紹介会社に払う成功報酬は、支払手数料(「採用費」を設けていれば採用費)で計上し、契約で定めた報酬の発生日が来て金額が確定した期の費用にします。
法人税では、販売費・一般管理費のうち償却費以外の費用は、事業年度の終わりまでに債務が確定したものに限って、その年度の損金になります。国税庁は債務が確定している費用の要件を次の3つとしています(国税庁 タックスアンサー No.5387)。
- 事業年度終了の日までに、その費用に係る債務が成立していること
- 事業年度終了の日までに、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
- 事業年度終了の日までに、その金額を合理的に算定することができるものであること
成功報酬に当てはめると、契約で報酬の発生日を入社日と定めている場合、期末までに入社日が来ていて、年収と料率から金額を計算できれば、その期の費用です。内定の時点で請求書を受け取っていても、契約上の発生日である入社日が翌期なら、翌期の費用になります。
成功報酬型のほかに、着手金を先に払うリテーナー型の契約も選択肢です。契約方式ごとの費用の違いはリテーナー契約とは?採用の3方式と費用比較で比べています。
成功報酬の仕訳例(税抜経理)
年収600万円の人の入社で、紹介会社との契約の料率が35%なら、成功報酬は税抜210万円で、消費税を足した請求額は231万円です。料率は紹介会社との契約で決まり、ここでは計算のために35%と置いています。
入社日(契約上の報酬の発生日)の仕訳は次のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
支払手数料 | 2,100,000 | 未払金 | 2,310,000 |
仮払消費税 | 210,000 | | |
翌月に振り込んだら、未払金を消し込みます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
未払金 | 2,310,000 | 普通預金 | 2,310,000 |
税込経理の会社なら、借方は支払手数料2,310,000円の1行です。
仮払消費税を仕入税額控除に使うには、紹介会社から登録番号の入った適格請求書を受け取って保存します。紹介会社が適格請求書発行事業者でない場合の控除の割合は、後の章「免税事業者への採用費は2026年10月から70%控除」にまとめました。
早期退職の返戻金は、返金が決まった期に処理する
成功報酬の契約には、紹介された人が入社後の一定期間内に辞めたとき、手数料の一部を返す返戻金の規定が入っていることがあります。返金が決まった期に、支払手数料を取り消す仕訳を起こします。
厚生労働省は、有料職業紹介事業者は返戻金制度を設けることが望ましいとし、手数料と返戻金制度に関する事項を、求人の申込みを受理した後速やかに求人者へ書面などで明示しなければならないとしています(厚生労働省「職業紹介事業パンフレット」令和7年4月)。
上の例で、同じ期のうちに半額の返金が決まったら、次のように支払手数料と仮払消費税を戻します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
未収入金 | 1,155,000 | 支払手数料 | 1,050,000 |
| | 仮払消費税 | 105,000 |
前の期に費用にした成功報酬の返金を翌期に受けるときは、支払手数料の取り消しではなく雑収入で受ける会社もあります。どちらにするかは、社内の経理規程で決めておく事項です。
紹介手数料の上限は「上限制」と「届出制」で決まり方が違う
人材紹介の手数料には、法令で最高額が決まる上限制手数料と、紹介会社が厚生労働大臣に届け出た手数料表の額で決まる届出制手数料の2つの方式があります。
厚生労働省の職業紹介事業パンフレット(令和7年4月)によると、上限制手数料の最高額は支払われた賃金額の100分の11(免税事業者は10.3)です。期間の定めのない雇用契約で6か月を超えて雇用された場合は、6か月間の賃金の100分の11と、臨時に支払われる賃金などを除いた6か月間の賃金の100分の14.8(免税事業者は13.9)のいずれか大きい額が上限になります。
届出制手数料は、紹介会社が届け出た手数料表の額を徴収できる方式で、料率は紹介会社ごとに違います。契約書に書かれた料率がどちらの方式に基づくかを確かめる手がかりは、手数料の明示の書面です。
求人広告・スカウト媒体の費用は広告宣伝費か採用費で計上する
求人広告や求人媒体の掲載料は広告宣伝費で計上し、掲載した期間に応じて費用にします。「採用費」を設けた会社は採用費に入れます。
求人媒体に4週間の掲載を税込330,000円で申し込み、掲載の開始月に振り込んだ例の仕訳は次のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
広告宣伝費 | 300,000 | 普通預金 | 330,000 |
仮払消費税 | 30,000 | | |
掲載期間が期末をまたぐ前払いは、翌期に掲載される分を前払費用にして、翌期に広告宣伝費へ振り替えます。
スカウトサービスは、契約の形で計上の時期が変わります。毎月の利用料は利用した月の支払手数料(または広告宣伝費)です。入社時に払う成果報酬は、人材紹介の成功報酬と同じく、契約上の発生日が来て金額が決まった期の費用にします。
面接者と内定者の交通費は消費税の扱いが分かれる
面接や内定者説明会に来てもらうための交通費は、旅費交通費で計上します。勘定科目は同じでも、仕入税額控除に必要な書類の分かれ目は、相手が面接者か内定者かです。
国税庁のインボイスQ&A問107-3(令和6年4月追加)は、労働契約が成立していると認められる内定者に払う交通費等を、従業員の出張旅費と同じ「出張旅費等特例」の対象としています。出張旅費等特例では、旅行に通常必要と認められる部分の金額について、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められます。採用面接者は通常、従業員等に該当しないため、この特例の対象外です(国税庁 インボイスQ&A 問107-3)。
支給する相手・支払の中身 | 仕入税額控除に必要なもの |
|---|
労働契約が成立していると認められる内定者(採用内定通知を受け、入社誓約書等を提出している等の状況で判断) | 出張旅費等特例の対象。通常必要と認められる部分は、一定の事項を記載した帳簿の保存で控除できる |
採用面接者、労働契約の成立が認められない内定者で、船舶・バス・鉄道・軌道の運賃を会社が直接払ったものと同視できる3万円未満の支払 | 公共交通機関特例の対象。一定の事項を記載した帳簿の保存で控除できる |
上のどちらにも当たらない支払(3万円以上の運賃、宿泊費など) | 本人が受け取った適格請求書または適格簡易請求書の提出を受けて保存する。宛名が本人の氏名なら、原則として立替金精算書も保存する |
候補者との会食は1人10,000円以下なら交際費等から除ける
候補者や内定者を招いた会食の費用は、参加者1人あたり10,000円以下で、決められた5項目を書いた書類を残せば、交際費等から除けます。
国税庁のタックスアンサー No.5265 によると、飲食等のための費用で、支出額を参加者の数で割った金額が10,000円以下のものは交際費等から除かれます。2024年3月31日以前に支出した飲食費の基準は5,000円以下でした。ただし、専ら自社の役員・従業員やその親族のための飲食は、この除外の対象になりません。
除外を受けるために保存する書類に書く5項目は次のとおりです。
- 飲食等のあった年月日
- 飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名または名称と、その関係
- 飲食等に参加した者の数
- 飲食等に要した費用の額、飲食店等の名称と所在地
- その他、飲食等に要した費用であることを明らかにするために必要な事項
10,000円の判定は、会社が使っている消費税の経理処理(税抜経理か税込経理か)で計算した金額で行います。
1人10,000円を超えた会食の費用は交際費等です。期末の資本金が1億円以下などの法人は、飲食費の50%を超える部分か、年800万円(定額控除限度額)を超える部分のいずれかが損金不算入になり、どちらかを選べます。
免税事業者への採用費は2026年10月から70%控除
適格請求書を発行できない免税事業者に払う採用費は、仕入税額控除を経過措置の割合でしか受けられず、その割合は2026年10月1日に80%から70%へ下がりました(国税庁「令和8年4月 消費税法等の一部改正のお知らせ」)。個人で採用代行や面接代行を請け負う事業者、小規模な求人媒体などへの支払が当たりえます。
国税庁のリーフレット(令和8年9月)によると、免税事業者等からの課税仕入れにつき一定割合を控除できる経過措置は、次の順に縮小します(国税庁「インボイス制度に関するお知らせ 令和8年度税制改正特集」)。
課税仕入れを行った日 | 控除できる割合 |
|---|
2026年9月30日まで | 80% |
2026年10月1日から | 70% |
2028年10月1日から | 50% |
2030年10月1日から | 30% |
2031年10月1日から | 控除できない |
あわせて、1つの免税事業者ごとの仕入れに係る年間の適用上限額が、10億円から1億円に引き下げられました。2026年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます(財務省「令和8年度の税制改正」)。
2026年11月に、免税事業者の個人へ面接代行の報酬を税込110,000円払った例(税抜経理)で計算します。消費税相当額10,000円の70%にあたる7,000円が仮払消費税になり、残りは費用に含める扱いです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
支払手数料 | 103,000 | 普通預金 | 110,000 |
仮払消費税 | 7,000 | | |
採用の外注先が適格請求書発行事業者かどうかは、契約の前に登録番号で確かめておくと、控除できる額を予算に織り込めます。
採用費を年間で管理するときは科目と集計の単位を固定する
採用費を予算と比べるときは、勘定科目(または補助科目)を毎期同じにしたうえで、職種と採用経路の2つで集計できるように記帳します。
記帳の摘要に職種と採用経路(人材紹介・求人広告・スカウト・社員紹介など)を書いておけば、期末に元帳から出せるのが「経路ごとの採用単価」です。人材紹介の成功報酬は入社が決まった期、求人広告は掲載した期と、計上の時期が経路ごとに違うので、採用人数と同じ期間で採用費を区切って比べます。