採用見送りの意味と不採用との違い
採用見送りとは、企業が選考の結果として応募者を採用しないと決め、その結果を本人に知らせることで、不採用と同じ結論を角の立ちにくい言葉で伝える言い方です。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者が賃金を支払うことについて、両者が合意することで成立します(e-Gov 法令検索「労働契約法」第6条)。選考の途中で企業が採用しないと決めた時点では合意がまだ無いため、「見送り」と書いても「不採用」と書いても、契約は生まれません。
通知の文面での使い方は「慎重に選考を進めました結果、誠に残念ながら今回は採用を見送らせていただくことになりました」が典型です。
再応募の扱いは企業の方針で決まる
再応募を受け付けるかどうかは、通知に使う言葉ではなく企業の方針で決まります。「見送り」と書くだけでは、候補者には次の機会があるのかどうかが伝わりません。
もう一度応募してほしい候補者には、「別のポジションの募集が始まった際に、改めてご連絡してもよろしいでしょうか」のように通知の中で具体的に尋ね、本人の返事を社内の記録に残します。
採用見送り・内定取消し・本採用見送りの違い
選考中の採用見送り、内定取消し、本採用見送りの3つを分けるのは、企業が判断した時点で労働契約が成立しているかどうかです。選考中の見送りは契約が成立する前の判断で、内定取消しと本採用見送りは、成立した契約を企業が解消する判断になります。
項目 | 採用見送り(選考中) | 内定取消し | 本採用見送り(本採用拒否) |
|---|
判断する時点 | 書類選考・面接の後、内定を出す前 | 内定を通知した後、入社日より前 | 入社後、試用期間中または期間の満了時 |
労働契約 | 成立していない | 判例の事実関係では、就労の始期と解約権の留保が付いた労働契約が成立 | 解約権が留保された労働契約が成立し、就労している |
企業の判断が認められる範囲 | 誰をどの条件で雇うかは、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由に決められる | 内定当時に知ることができず、知ることも期待できない事実を理由とし、客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる場合に限る | 解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と是認される場合に限る |
主な判例 | 三菱樹脂事件(昭和48年12月12日 最高裁大法廷判決) | 大日本印刷採用内定取消事件(昭和54年7月20日 最高裁第二小法廷判決) | 三菱樹脂事件、神戸弘稜学園事件(平成2年6月5日 最高裁第三小法廷判決) |
出典: 厚生労働省「確かめよう労働条件」裁判例 1-1 採用の自由・1-2 採用内定の取消・3-4 試用期間、最高裁判所 昭和54年7月20日 第二小法廷判決
内定の通知で労働契約が成立したかは、通知の後に別の契約手続きを予定していたかなど、個々の事実関係で判断されます。内定の通知と取消しの要件は「採用決定の通知方法は?内定との違いや注意点を解説」が詳しい記事です。
本採用見送りに必要な解雇の手続き
本採用見送りは、試用期間の間に留保した解約権を企業が行使するもので、解雇の手続きも必要です。最高裁は神戸弘稜学園事件で、試用期間中の解約権の行使は通常の解雇より広い範囲で認められるものの、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と是認される場合に限るとしています。
三菱樹脂事件も、3か月の試用期間の満了直前に本採用を拒否された事案でした。
手続きの面では、労働基準法第20条が、解雇の少なくとも30日前の予告か、30日分以上の平均賃金の支払いを使用者に求めています。第21条は「試の使用期間中の者」をこの規定の対象から外していますが、14日を超えて引き続き使用されるに至った場合は対象に戻ります(e-Gov 法令検索「労働基準法」第20条・第21条)。
試用期間の契約上の位置づけを比べた記事は「トライアル雇用と試用期間の違い|契約・助成金・解雇」です。
採用見送りの理由にできる事項と避ける事項
採用見送りの理由を決める基準は、応募者の適性・能力が求人職種の職務を遂行できるかどうかです。厚生労働省の「公正な採用選考の基本」は、応募者の基本的人権を尊重することと、応募者の適性・能力に基づいた基準で行うことの2点を、採用選考の基本的な考え方に置いています。
職務の要件に照らした見送りの理由は、たとえば次の4つです。
- 求める経験・スキルと応募者の経験に差がある(本番環境での運用経験を必須にしたエンジニア職で、その経験が確認できなかった など)
- 年収・勤務地・入社時期などの条件が折り合わない
- 同じポジションに、要件により近い候補者がいた
- 募集の人数が埋まった、または事業計画の変更で募集を止めた
一方、次の事項は見送りの理由にしません。法令の3つが求めるのは、性別・年齢・障害にかかわりなく均等な機会を与えることです。
厚生労働省「公正な採用選考の基本」が挙げる事項は、理由にしないだけでなく、選考の中で把握しないようにします。
根拠 | 求めていること |
|---|
男女雇用機会均等法第5条 | 労働者の募集・採用で、性別にかかわりなく均等な機会を与える |
労働施策総合推進法第9条 | 厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集・採用で、年齢にかかわりなく均等な機会を与える |
障害者雇用促進法第34条 | 労働者の募集・採用で、障害者に障害者でない者と均等な機会を与える |
厚生労働省「公正な採用選考の基本」 | 本籍・出生地、家族、住宅状況、生活環境など本人に責任のない事項や、宗教、支持政党、思想など本来自由であるべき事項を、応募書類や面接で把握しない |
厚生労働省は、本籍・出生地や思想などの事項を採用基準にしないつもりでも、把握すれば結果として採否の決定に影響し、就職差別につながるおそれがあるとしています。見送りの理由を考える前の準備は、面接の質問と応募書類の項目からこれらを外しておくことです。
採用見送りの通知の方法とタイミング
採用見送りの通知は、応募者1人ずつに宛てたメールで送るのが基本で、最終面接まで進んだ応募者には電話で伝えたうえで、同じ内容をメールで残す方法もあります。時期について最優先なのは、面接の場で伝えた結果の連絡期日を守ることです。
方法 | 向いている場面 | 気をつける点 |
|---|
メール | 書類選考・一次面接など、応募者の多い選考 | 宛先を1人ずつにし、CC・BCC で複数人に送らない。件名で選考結果の連絡だと分かるようにする |
電話 | 最終面接まで進んだ応募者 | 事前にメールで連絡の時間を相談し、通話の後に同じ内容をメールで送る |
書面(郵送) | 応募書類を返却するとき | 返却する書類の一覧を同封し、届いた記録が残る送り方を選ぶ |
人材紹介会社の担当者経由 | 紹介会社から紹介を受けた応募者 | 紹介会社の担当者に結果と伝えてよい理由の範囲を伝え、本人への連絡は担当者に任せる |
メールの本文の順は、応募への御礼、結果、応募書類の扱い、結びの挨拶です。理由を伝える場合と再応募の案内をする場合は、結果の後に加えます。
件名:選考結果のご連絡(株式会社〇〇)
〇〇 〇〇 様
このたびは当社の〇〇職にご応募いただき、誠にありがとうございました。
慎重に選考を進めました結果、誠に残念ながら、今回は採用を見送らせていただくことになりました。
ご提出いただいた応募書類は、当社の規定に基づき、〇月〇日までに責任をもって破棄いたします。
末筆ながら、〇〇様の今後のご活躍をお祈り申し上げます。
株式会社〇〇 人事部 採用担当 〇〇
選考の段階ごとの文例は「不採用通知の例文と送り方のコツとは?注意点もあわせて解説」に、紹介会社の担当者へ送る文面は「人材紹介会社への連絡例文7場面|見送りは3行で書く」にまとめています。
結果の連絡が遅れると、応募者は他社の選考を進める判断ができません。連絡の期日は面接の最後に伝え、社内の決裁が延びるときは、期日より前に「結果のご連絡は〇日ごろになります」と途中経過を送ります。
見送りの後も候補者との関係を残す方法
採用見送りにした応募者の中には、時期やポジションが変われば採用したい人もいます。関係を残す手順は、通知の中で別のポジションの案内を歓迎すると具体的に書き、連絡してよいかの同意と、どのポジションなら合いそうかを社内の記録に残すことです。
記録には、見送りの時点で足りなかった要件と、評価が高かった経験を分けて書いておくと、次の募集が始まったときに声をかける相手を絞れます。
Offers のお役立ち資料には、候補者が動くタイミングで第一想起される企業を目指す「Farm型採用」の考え方と実践方法をまとめた資料があります。見送った候補者との関係を、次の募集につなげる設計を考えるときの材料です。
応募書類の返却・破棄と個人情報の扱い
採用見送りにした応募者の履歴書・職務経歴書は、応募を受けたときに示した目的の範囲で保管し、使う必要がなくなったら返却するか、消去・破棄します。
職業安定法第5条の5は、労働者の募集を行う者に、求職者等の個人情報を業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして収集し、その目的の範囲内で保管・使用すること(本人の同意がある場合などを除く)と、適正に管理するために必要な措置を講じることを求めています(e-Gov 法令検索「職業安定法」第5条の5)。
個人情報保護法第22条が個人情報取扱事業者に求めているのは、個人データを利用する必要がなくなったときに、遅滞なく消去するよう努めることです(e-Gov 法令検索「個人情報の保護に関する法律」第22条)。消去は努力義務で、いつまでに消すかは社内の規定で決めることになります。
実務で規定に入れておきたいのは、次の3点です。
- 応募を受け付けた時点で、見送りになった場合の書類の扱い(返却か破棄か・保管する期間)を伝える
- 紙の書類だけでなく、採用管理システムに登録した情報や、メールに添付された応募書類も同じ規定で扱う
- 将来ほかのポジションで連絡したい応募者の情報は、その目的を明らかにし、本人の同意を得たうえで保管する
採用見送りの理由を伝えるかの判断
採用見送りの理由を伝えるかどうかと、伝える範囲は、選考を始める前に社内で決めておきます。候補者ごとに担当者が判断すると、同じ理由で見送った応募者への説明が食い違い、問い合わせへの答えもそろいません。
理由を伝える場合は、職務の要件に照らした事実で伝えます。たとえば「今回のポジションでは、決済システムの設計を担った経験を必須としており、その点でより経験の近い候補者がいたため、見送りと判断しました」のように、要件と判断を1文で示す形です。性格や人柄の評価として書かず、前の章で挙げた把握しない事項には触れません。
理由を伝えない場合は、通知に「選考の内容に関するお問い合わせにはお答えいたしかねます」と書き、問い合わせを受けたときの答え方を担当者の間でそろえます。
最終面接まで進んだ応募者に限って、面談で詳しく伝えると決めている企業もあります。その場合も、伝える内容は要件と判断に絞るのが原則です。
採用見送りを減らす選考の設計
最終面接での見送りを減らすには、求める要件と評価の基準を選考を始める前に決め、書類選考から最終面接まで同じ基準で判断します。厚生労働省も、面接では職務遂行に必要な適性・能力を評価する観点から、あらかじめ質問項目や評価基準を決めておくよう呼びかけています。
- 求人票の必須要件と、面接の評価項目を一致させる
- 面接官ごとの評価を同じ評価シートに記録し、複数人で判断する
- 年収・勤務地・入社時期の希望を、書類選考の時点で応募者に確かめる
- 前職での働きぶりを確かめたいときは、本人の同意を得てリファレンスチェックを行う
リファレンスチェックの進め方と法令上の要件をまとめた記事は「リファレンスチェックとは|進め方・質問例・法令上の要件」です。