メルカリのOKRの位置づけと定義
メルカリは OKR を全社共通で使う目標設定の仕組みとし、Objective を「短期で向かう方向性」、Key Results を「ストレッチゴール」と定めて、チームや個人の目標設定を行っています(メルカリ採用サイト mercan・2022年7月28日の記事)。ストレッチゴールは、背伸びをしてようやく届く水準に置く目標を指す言葉です。
出典は同社の採用サイトの記事「ロードマップ経営に必要なのは、「ミッションを本気で達成する」と決める“狂気”」で、上級執行役員 経営戦略室長らへのインタビューの注記に OKR の定義が書かれています。
以下で使う資料は、メルカリまたはメルペイの社員が公式の媒体で書いたものです。公開の時期は2018年から2024年まで開いているので、どの時点の運用かを添えました。
資料(公式の媒体) | 公開日 | OKR について分かること |
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Mercari Design Blog「クリエイターとOKR大冒険」 | 2020年6月10日 | 四半期の期始め・期中・期末の進め方、評価との関係 |
Mercari Engineering Blog「メルカリで築くエンジニアキャリア」 | 2021年12月13日 | 個人の OKR の立て方、評価での扱い |
mercan「ロードマップ経営に必要なのは…」 | 2022年7月28日 | OKR の定義、ロードマップを入れた理由 |
mercan「プロジェクトからプロダクトへ…」 | 2024年5月14日 | OKR・評価管理システムを社内で開発・運用 |
Mercari Engineering Blog「メルペイのエンジニアリングへの投資を推進する仕組み」 | 2024年12月4日 | Company OKR の決め方、Engineering OKR からの切り替え |
Mercari Engineering Blog「メルカリのEngineering Roadmapの具体的な運用について」 | 2024年12月25日 | 3か月ごとの OKR 設定と Engineering Roadmap の関係 |
OKR の管理に使うのは社内で作ったシステムです。2024年5月の mercan の記事は、コーポレートエンジニアリングの People Products チームが「OKR・評価管理システム」の開発・運用を担当していると紹介されました。
OKRを決める流れ(四半期ごと・全社から個人へ)
メルカリの OKR は四半期(3か月)ごとに設定し、期始めに全社の OKR が決まってから、部門・チーム・メンバーがそれに目線を合わせて自分の OKR を立てる順で決まります。
Mercari Design Blog の記事「クリエイターとOKR大冒険」(2020年6月)の説明では、組織(メルカリ日本事業)、部門(マーケティング)、チーム(クリエイティブ)、メンバーの4つの単位で、それぞれ Objective と Key Results を立てます。チームやメンバーの成長に欠かせない目標があれば、全社の方向と多少違っていても加味して OKR に落とし込むとのことです。
2024年12月の Mercari Engineering Blog でも、メルカリの Japan Region の CTO が「クォーターごと、つまり3ヶ月ごとにOKRを設定しています」と書いており、四半期のサイクルは2024年時点でも続いていました。
グループ会社のメルペイは、ビジネスロードマップをもとに四半期単位でメルペイ全体の OKR(Company OKR)を設定し、それに紐づける形で配下の組織の OKR を設定しています(Mercari Engineering Blog・2024年12月4日)。
個人のOKRの立て方(Objectiveあたり4〜5つの定量目標)
個人の OKR は、いくつかの Objective と、それぞれに対応する4〜5つの定量的な目標で立てる形です。Mercari Engineering Blog の「メルカリで築くエンジニアキャリア」(2021年12月・Engineering Office チーム)が、エンジニアの例として説明しています。
同じ記事によると、担当するプロジェクトの目標に加えて、新しい技術の習得や技術発信、英語力の向上など、個人の成長に関する OKR も立てられます。目標はエンジニアリングマネージャー(EM)と期待値を話し合って決め、評価の際に振り返る流れです。
期始め・期中・期末にすること
1つの四半期の中では、期始めに OKR を立て、期中は進捗とずれを確かめ、期末に自己評価で振り返ります。Mercari Design Blog の記事(2020年6月)の流れをまとめると次のとおりです。
時期 | すること |
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期始め | 全社の OKR が決まり、大枠の目標と進路が共有される。部門・チーム・メンバーがそれに目線を合わせて OKR を立てる |
期中 | チームのミーティングや1on1で、Key Results の達成度をプロジェクトの進捗と紐付けて確かめる。OKR と実務の方向が大きくずれたら Key Results を軌道修正する |
期末 | 各 Key Results を何%達成し、Objective を達成できたかを、自己評価をもとに振り返る |
期中に Key Results を直してよいとしている点から、OKR を期初に固めた約束としてより、挑戦の向きを合わせ続ける道具として扱っている様子が読み取れます。
OKRと人事評価の関係(成果の価値とプロセスを見る)
メルカリでは OKR を評価で考慮するものの、評価の対象は OKR の達成状況でなく、実際に得られた成果の価値とそこに至るプロセスです。Mercari Engineering Blog の記事(2021年12月・Engineering Office チーム)が、マネージャーからのフィードバックの説明の中でこう書いています。
Mercari Design Blog の記事(2020年6月)も、メルカリの OKR は人事評価のツールと連携しているとしたうえで、原則として OKR の達成度そのものは評価の対象にせず、OKR から生まれたチャレンジそのものを評価すると説明していました。
ただし同じ記事は、現実の運用はそこまで明確に区切れず、OKR の達成度などが評価に連動する側面もあると書いています。OKR と評価を完全に切り離した運用として紹介するのは、原文の書きぶりより強い言い方になります。
評価制度の変遷(2018年・2019年・2021年)
OKR と組み合わせて使う人事評価制度は、2018年から2021年にかけて段階的に変わりました。採用サイトの mercan の2本の記事から、時点ごとに並べます。
時点 | 評価制度の内容 | 出典 |
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2018年1月 | 人事評価制度を刷新し、「ノーレイティング」と「絶対評価」を明確に盛り込む | mercan・2018年10月12日 |
2019年8月時点 | 「レイティング(ただし、一人ひとりの成果/成長に応じた絶対評価)」を実施 | 同じ記事の冒頭の注記 |
2021年2月 | 人事評価制度を大幅に更新し、グレードを軸に成果とバリュー発揮行動の2つの観点で評価する | mercan・2021年3月23日 |
2018年10月の記事は、評価の運用の流れも紹介しています。1次評価者のマネージャーがメンバーを評価し、その評価をもとに、他のマネージャー同士の「評価キャリブレーション」という会議で2次評価を行う流れです。
2021年の記事によると、新しい制度で問うのは、成果については該当するグレードで期待されている成果を達成できたか、行動についてはメルカリグループが定めるバリューを発揮し実践できたかの2点でした。成果が評価されればボーナスに、成果と行動の両方が評価されれば昇給につながります。
評価制度の設計や運用を社内で見直すときの材料は、Offers のお役立ち資料にまとめています。人事評価制度の軸と反映先を他社の公表資料と比べたいときは、「人事評価制度の事例20社、公表資料で見る評価軸と反映先」も参考になるはずです。
OKRの短期目線を補うロードマップ(2019年導入)
メルカリは2019年にロードマップを導入しました。2022年7月の mercan の記事で上級執行役員 経営戦略室長は、ボトムアップの組織でそれぞれがやりたいことを進めてしまい、勝ち筋が見えないまま投資がかさんでいたことを最初の理由に挙げ、ミッション達成までの道筋を描いて経営陣とメンバーのベクトルを合わせるために入れたと話しています。
あわせて、全社共通の目標設定ツールとして OKR を入れていても短期目線に縛られ、中長期のビジョンを保ちにくいことも導入の理由に挙げました。
同じ記事によると、ロードマップの中身は期初と四半期に一度の振り返りのタイミングで更新し、全てのメンバーに公開しています。全社戦略の策定と運用をリードする担当者は、ロードマップを通じてチームや個人の行動を引き出せるようになれば、チームや個人の OKR の設計がしやすくなるとも話していました。
全社のロードマップとは別に、エンジニア組織には Engineering Roadmap(毎年12月に見直す1〜3年の計画)もあり、2024年12月の Mercari Engineering Blog で Japan Region の CTO は、3か月ごとに OKR を考えるのは計画が無いと大変な作業で、年間の計画が Engineering Roadmap で決まっていれば、OKR に設定する項目の多くをそこから転用でき、スムーズに作れるとの説明です。
仕組み | 見る期間 | 役割 |
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ロードマップ(全社) | 中長期(ミッション達成までの道筋) | 経営陣とメンバーの向きを合わせる。チームや個人の OKR を設計しやすくすることは、次の課題として語られている |
Engineering Roadmap(エンジニア組織) | 1〜3年(毎年12月に見直す) | OKR に設定する項目の多くを、ここから転用する |
OKR | 四半期(3か月) | 短期で向かう方向性(Objective)とストレッチゴール(Key Results)を、全社・チーム・個人で立てる |
中長期の投資を別枠で追うメルペイの仕組み
メルペイは2023年7月から、エンジニアリングへの中長期の投資を、OKR とは別の「Engineering Projects」という仕組みで進めています。経緯は2024年12月4日の Mercari Engineering Blog の記事にあります。
以前のメルペイは、Company OKR と同じく四半期ごとに Engineering OKR を定義していました。記事が挙げる課題は2つです。1つは、ビジネス上必要な開発を優先すると Engineering OKR の進捗を出しにくいこと。もう1つは、緊急度は低いが重要度の高いエンジニアリング投資には不確実性が伴い、OKR に求められる厳密なトラッキングに向かない部分があることでした。
Engineering Projects では、リアーキテクチャや FinOps などのプロジェクトを四半期ごとに選び、隔週の定例ミーティングで進捗を追います。2024年10〜12月期に選んだプロジェクトは6つでした。Objective などは設定せず、中長期のプロジェクトを進めることを前提にした仕組みです。
複数の期にまたがる投資を OKR とは別の枠で追う判断は、OKR に載せる目標の範囲を決めるときの参考になります。
メルカリの運用から自社のOKR設計に移せる点
メルカリの公開情報から自社の OKR 設計に移せるのは、設定の周期、全社から個人への落とし方、評価との関係、中長期の目標の置き場所といった決めごとです。メルカリの答えをそのまま写さず、自社の答えを1つずつ決めておくと、運用を始めてから迷う場面を減らせます。
決めること | メルカリの公開情報にある答え | 自社で確かめる問い |
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設定の周期 | 四半期(3か月)ごと | 事業の計画の単位と合う周期はどれか |
全社から個人への落とし方 | 期始めに全社の OKR、続いて部門・チーム・個人。成長の目標は全社の方向と多少違っても加味する | 個人の成長の目標を OKR に入れてよいか |
Key Results の置き方 | ストレッチゴール。個人は Objective ごとに4〜5つの定量的な目標(エンジニアの例) | 達成して当然の数値になっていないか |
評価との関係 | 成果の価値とプロセスを評価する。達成度が評価に連動する側面もある | 達成率を評価に使うか、使わないならどう書いて伝えるか |
期中の見直し | チームのミーティングや1on1で確かめ、大きくずれたら Key Results を直す | 期中に Key Results を変える手続きを決めているか |
中長期の目標 | 全社はロードマップで道筋を描き、エンジニア組織は Engineering Roadmap から OKR の項目を転用する。中長期のエンジニアリング投資は Engineering Projects で追う(メルペイ) | OKR に乗せない目標をどこで追うか |
評価との関係は、制度の説明と現場の運用がずれやすい項目です。KPI を評価に組み込む場合の設計の手順は「KPI人事評価の定義と設計手順」、Objective と Key Results の書き方の例は「OKRの目標設定例と導入後の運用ポイント」で扱っています。
公式発信を読むときの時点と範囲
メルカリの OKR の運用を自社の参考にするときは、資料ごとの時点と、どの組織の話かを確かめてから使います。ここで使った資料の公開日は2018年10月から2024年12月まで開いており、評価制度も2018年・2019年・2021年に変わりました。
2018年10月の mercan の記事は、冒頭に「本記事は2018年10月時点を参照しています」と注記し、2019年8月時点の運用を書き添えています。どの記事もその時点の運用を書いたもので、現在の制度は同社の最新の発信で確かめる必要があります。
組織の範囲にも違いがあり、注意が要る点です。Engineering Projects はメルペイの取り組みで、個人の OKR に4〜5つの定量的な目標を置く説明はエンジニアの例でした。メルカリグループ全体に同じ形が当てはまるとは限りません。
この記事で扱ったのは、メルカリまたはメルペイの社員が公式の媒体で書いた運用の事実です。