採用業務のRPAの定義と、生成AI・AIエージェントとの違い
採用業務のRPAは、担当者がパソコンで行う決まった手順の操作を記録し、ソフトウェアのロボットに同じ手順で繰り返させる仕組みです。応募者の情報を求人媒体の管理画面から採用管理システムへ写す、決まった時刻に面接の案内メールを送るといった、手順と判断の基準が毎回同じ作業を受け持ちます。
手順に書かれていない判断は、RPAの守備範囲の外です。書類の中身を読んで合否を決める、応募者ごとに文面を書き分けるといった作業は、生成AIか人の担当になります。
種類 | 得意な作業 | 採用業務での例 | 苦手な作業 |
|---|
RPA | 決まった手順の転記・通知・集計 | 応募者情報の取り込み、案内メールの送信、週次の集計表づくり | 画面や手順が変わる作業、中身を読んで判断する作業 |
生成AI | 文章の下書き・要約・言い換え | スカウト文面の下書き、職務経歴書の要約、面接記録の整理 | 毎回同じ結果が必要な処理、根拠を示せない合否の判断 |
AIエージェント | 目的から手順を組み立て、複数のツールを続けて操作する | 候補者の情報収集から日程候補の提示までを一続きで進める | 手順と結果の記録を後から検証する必要がある作業 |
人 | 合否・条件・例外の判断 | 書類選考と面接の合否、年収などの条件提示、辞退時の対応 | 件数の多い単純な転記 |
採用の現場では、RPAが動かす作業と生成AIが下書きする作業を分けておき、最後の判断を人が持つ形が組みやすい分担です。採用業務のデジタル化全体の進め方は「採用DXとは?IT化との違いと選考工程別の進め方」で扱っています。
人事の生成AI導入は業務類型の中で未導入の割合が最も高い
人事の業務で生成AIを「未導入」と答えた企業の割合は35.4%で、総務省が並べた14の業務類型の中で最も高い値でした。総務省『令和8年版 情報通信白書』(2026年7月公表)の図表Ⅰ-2-1-7「業務類型ごとの生成AI活用状況と効果の実感(日本)」の値です。
同じ白書で、生成AIの活用方針の設問に「わからない」と答えた企業を除いた回答のうち、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると答えた割合は、日本で86.4%でした。会社としては生成AIを使っていても、人事の業務まではまだ届いていない企業が多いことになります。
業務類型 | 業務プロセスがAI中心に変更されている | 部署内の特定業務で活用している | 従業員が個人作業の効率化で活用している | 未導入 |
|---|
人事 | 5.6% | 20.3% | 15.1% | 35.4% |
議事録・メール作成補助 | 11.3% | 24.7% | 35.2% | 17.5% |
調達 | 7.0% | 16.7% | 14.3% | 35.0% |
出所:総務省『令和8年版 情報通信白書』図表Ⅰ-2-1-7(2026年7月24日公表)。
人事は「業務プロセスがAI中心に変更されている」も5.6%で、14類型の中で最も低い値です。一方で、議事録やメールの作成補助の未導入は17.5%でした。採用業務でも、応募者への連絡文や面接記録の整理のような文章作業から生成AIを使い始め、手順の決まった転記や通知はRPAで動かす、という順に分けると始めやすくなります。
AIエージェントについては、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の『DX動向2026』(2026年7月公表)が「「AI エージェント」の利用はいずれの部署でも低水準にとどまっており、より高度な AI 利活用はまだ限定的な状況にある」と書いています。採用の工程を一続きでAIエージェントに任せる前に、RPAと生成AIで工程ごとの分担を固めておく段階にある企業が多い、というのが今の状況です。
採用業務にRPAを導入する3つのメリット
採用業務にRPAを導入するメリットは、転記と通知の時間が減ること、入力の誤りが減ること、処理の記録が残ることの3つです。どれも、手順が毎回同じ作業を任せたときに出るもので、選考の質そのものをRPAが上げるわけではありません。
1つ目は時間です。スカウト媒体や人材紹介会社からの推薦が増えるほど、応募者の情報を採用管理システムへ写す作業は件数に比例して増えます。ロボットは担当者の勤務時間に縛られずに動くため、夜間に届いた応募を朝までに取り込んでおける点も手作業との違いです。
2つ目は入力の誤りです。氏名・連絡先・応募職種の転記で起きる写し間違いや取り込み漏れは、手順どおりに動くロボットなら起きにくくなります。応募者への連絡が遅れる、同じ人に二重に連絡するといった事故を、手前で止める手段の1つです。
3つ目は記録です。ロボットの操作は実行のたびにログに残るため、いつ・どの応募者の情報を・どのシステムへ写したかを後から確かめられます。応募者の個人情報を扱う採用業務では、この記録がそのまま管理の裏付けです。
費用の面で見落としやすいのは、ツールの利用料に加えて、ロボットの手順を作る人と、画面が変わったときに直す人の時間です。転記の件数が少ない時期は、手作業のほうが安く済むこともあります。
採用工程別のRPAの活用方法と生成AI・人との分担
RPAを活用しやすい採用工程は、応募の受付・面接日程の調整・選考結果の連絡・状況の集計の4つです。どの工程でも、合否と条件を決める判断は人に残し、文面の下書きは生成AIに任せると、ロボットの手順が単純なまま保てます。
工程 | RPAに任せる作業 | 生成AIに任せる作業 | 人が持つ判断 |
|---|
求人の掲載 | 複数の求人媒体の掲載内容を同じ原稿で更新する | 求人票の下書き、職種ごとの書き分け | 掲載する条件と年収の幅 |
応募の受付 | スカウト媒体・人材紹介会社からの応募を採用管理システムへ取り込む | 職務経歴書の要約 | 書類選考の合否 |
面接日程の調整 | 面接官の予定表から空き枠を取り出し、候補日を送る | 個別の事情がある応募者への文面 | 面接官の割り当て |
選考結果の連絡 | 合否が入力されたら定型の連絡と次の案内を送る | 不合格の連絡や辞退への返信の下書き | 送る内容の最終確認 |
状況の集計 | 媒体別・職種別の応募数と通過数を週ごとに表へまとめる | 集計結果の要点の文章化 | 媒体や求人票を見直すかどうか |
応募の受付は、応募の経路が増えるほど転記の手間が増えるので、RPAの最初の対象に向いています。
面接日程の調整は、空き枠の取り出しと候補日の送付までをロボットに任せ、応募者からの返信に個別の事情が書かれていたら人へ回す分け方が現実的です。採用管理システムに日程調整の機能があるなら、RPAを作る前にそちらを使えないかの確認が先です。採用管理システムの機能の範囲と選び方は「ATS(採用管理システム)とは?法令上の義務と選定基準」にまとめています。
求人の掲載をロボットで一括更新できるようになると、更新の手間は減りますが、求人票と採用ページで候補者に何が伝わっているかは別に確かめる必要があります。エンジニア採用力チェックは、企業URLから公開情報をAIが読み取り、技術ブランド・技術透明性・採用情報・雇用条件・活動積極性の5指標24項目で採点した無料のレポートを、原則1営業日以内にメールで届けるサービスです。
応募者の個人情報を扱うRPAで守る職業安定法の指針
応募者の個人情報をRPAで写したり保管したりするときは、職業安定法に基づく指針(平成11年労働省告示第141号)の第5に沿って、収集目的の範囲での保管・使用、漏えいとアクセスの防止、不要になった情報の削除を設計に入れます。指針の第5は「求職者等の個人情報の取扱い」を定めたもので、厚生労働省の労働局の解説では、対象の「職業紹介事業者等」に労働者の募集を行う者や求人者も含むとされています(厚生労働省 新潟労働局「指針(平成11年労働省告示第141号)(抄)」)。
指針が求めるのは、個人情報の保管と使用を収集目的の範囲に限ること、そして漏えい・滅失・毀損の防止、正当な権限を持たない者のアクセスの防止、保管の必要がなくなった情報の破棄・削除の措置を講じることです。
RPAに置き換えると、3つの点を手順に入れることになります。ロボットに使わせるアカウントの権限を、写す先のシステムと項目に絞ること。応募者の情報をロボットが一時的に置く作業用のファイルやフォルダを残さないこと。選考が終わった応募者の情報を、自社で決めた保管期間のあとに消す処理を手順に含めることです。
生成AIに職務経歴書の要約を任せる場合も、どのサービスに応募者の情報を入力してよいかを社内で決めておきます。情報を入力する時点で、収集したときの目的の範囲に収まっているかを確かめます。
RPAが向かない採用業務と止まりやすい原因
RPAが向かないのは、手順が毎回変わる作業と、書類や面接の中身を読んで判断する作業です。書類選考の合否、面接の評価、年収や入社日の調整は、RPAに任せる対象から外します。
求人媒体や採用管理システムの画面は、提供元の更新で予告なく変わることがあります。RPAは画面上のボタンや項目の位置を手がかりに動くため、画面の変更はロボットの停止や誤入力の原因の1つです。
止まりやすいのは、ロボットの手順を作った人しか直せない状態のときです。担当者の異動や退職で直せる人がいなくなると、ロボットを止めて手作業へ戻すしかなくなります。手順書と、止まったときに誰へ連絡するかを、ロボットを動かし始める前に決めておきます。
もう1つの原因は、元の業務の無駄を残したまま自動化することです。同じ情報を2つのシステムへ入力している作業は、RPAで写すより、システムの連携や片方の廃止で入力そのものを減らせないかを先に検討します。
RPA導入を4つの手順で進める
採用業務へのRPA導入は、作業の棚卸し、採用管理システムと生成AIとの切り分け、小さな範囲での試行、保守の担当と停止時の手順の決定という4つの手順で進めます。
手順 | やること | 決めておくこと |
|---|
1. 作業の棚卸し | 採用の工程ごとに作業を書き出し、月の件数と1件あたりの時間を記録する | 自動化の候補にする作業の基準(件数が多い・手順が毎回同じ) |
2. 切り分け | 候補ごとに、採用管理システムの標準機能・生成AI・RPAのどれで受け持つかを決める | 人が判断する箇所と、ロボットが止まったときの代わりの手順 |
3. 小さな範囲での試行 | 1つの職種や1つの応募経路に絞ってロボットを動かし、誤りと止まった回数を記録する | 試行の期間と、広げるかどうかを決める基準 |
4. 保守と停止時の手順 | 手順書を作り、画面の変更に合わせて直す担当を決める | 担当者が不在のときの連絡先と、手作業へ戻す手順 |
手順1で記録した件数と時間が、手順3の試行のあとに導入の前後を比べるときの基準です。
AIを採用のどの工程で使えるか、導入後にどんな課題が出たかは「AI採用とは|工程別の使い方と導入後の課題」で扱っています。RPAで手順の決まった作業を動かし、生成AIで文章の作業を軽くし、合否と条件の判断に人の時間を充てる形を、工程ごとに組み立てていくのが採用業務の自動化の進め方です。