メンタルマネジメントは、自分の心の状態を把握し、ストレスに対処して整える自己管理を指して使われる言葉です。
企業の文脈では、従業員のセルフケアを支える仕組みづくりを含めて使われます。似た言葉のメンタルヘルスマネジメントとは、誰が主体になるかで分けて整理できます。
定義と目的、必要とされる理由、具体的な方法、企業の取り組み事例の順に整理しました。
メンタルマネジメントの定義と目的
メンタルマネジメントは、従業員が自分のストレスと向き合い、心の健康を維持・増進できるようにするための取り組みです。
自分のストレスを理解して適切に対処できると、仕事のパフォーマンスを保ちやすくなります。
メンタルマネジメントの定義
メンタルマネジメントは、自分の心の状態を把握し、ストレスに対処して整える自己管理を指して使われる言葉です。企業の文脈では、従業員一人ひとりのセルフケアを会社が後押しする取り組みを含めて使われます。
厚生労働省の指針は、労働者自身がストレスに気づき、対処することを「セルフケア」と呼び、その必要性を認識することが重要だとしています(厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」平成27年11月30日改正)。
例えば、ストレスを感じたときに深呼吸や軽い運動をする、趣味に没頭するなど、自分なりのリフレッシュ方法を持つことが有効です。
同僚や上司への相談、専門機関の利用も、メンタルマネジメントに含まれます。
メンタルマネジメントの目的
メンタルマネジメントの目的は、従業員の心の健康を保ち、活き活きと仕事に取り組める環境を作ることです。
ストレスが軽くなると、集中力や仕事へのモチベーションを保ちやすくなります。結果として、企業全体の生産性向上に貢献することが期待できます。
メンタルヘルス不調による休職や離職を防ぐことも、重要な目的の一つです。従業員の定着は、組織としてのノウハウや知識の蓄積につながる要素です。
メンタルマネジメントの具体例
企業がメンタルマネジメントを支える取り組みの具体例には、リフレッシュルームの設置、社内イベントの開催、柔軟な勤務制度の導入があります。
上司や同僚との良好なコミュニケーションを促す取り組みも重要です。定期的な面談やチームビルディングを通して、お互いを理解し、サポートし合える環境を作ります。
オンラインカウンセリングや、メンタルヘルスに関するeラーニングを取り入れる方法もあります。従業員が気軽に相談できる体制づくりは、不調の予防につながる取り組みです。
メンタルマネジメントが必要な理由
メンタルマネジメントが必要な理由は、仕事によるストレスが従業員の不調や離職につながり、労災の請求という形でも表れているためです。
長時間労働、複雑化する業務内容、人間関係のトラブルなど、ストレスを生む要因は職場に複数あります。
職場におけるストレスの影響
職場のストレスが従業員の心身に表れる形は、集中力の低下、ミスの増加、イライラ感、疲労感、睡眠の乱れなどです。
症状が続くと日常生活にも支障が出て、うつ病などの精神疾患に発展することもあります。
仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害について、令和7年度の労災請求件数は4,958件で、前年度から1,178件増えました。支給決定件数は1,082件です(厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」令和8年7月15日公表)。
従業員のパフォーマンス向上
メンタルマネジメントは、従業員が本来の力を発揮できる状態を保つことで、パフォーマンスの向上に貢献します。
ストレスが軽くなると、集中して仕事に取り組みやすくなります。業務に積極的に関わる従業員が増えることも、期待される効果です。
離職防止のための重要性
メンタルヘルスの不調は、休職や離職のきっかけになります。不調を早めに防ぐメンタルマネジメントは、従業員の定着を支える取り組みです。
離職が減ると、採用や教育にかかるコストも抑えられます。離職率の計算方法と公的統計の水準は「離職率とは?令和7年13.7%と業種・規模・年齢別」にまとめました。
採用の側から自社の見え方を確かめるなら、企業のURLを入れると公開情報を5指標24項目で採点するエンジニア採用力チェックが使えます。レポートは1営業日以内に届きます。
メンタルヘルスマネジメントとの違い
メンタルヘルスマネジメントとメンタルマネジメントは、誰が主体になるかで分けて整理できる言葉です。メンタルマネジメントは従業員本人のセルフケアが中心で、メンタルヘルスマネジメントは企業が組織として行う取り組みです。
どちらも従業員の心の健康を守るためのもので、両方を組み合わせて進めます。
メンタルヘルスマネジメントの定義
メンタルヘルスマネジメントは、企業が従業員のメンタルヘルス不調を防ぎ、不調になった人の回復と職場復帰を支えるために行う組織的な取り組みです。
厚生労働省の指針は、職場の取り組みを「メンタルヘルスケア」と呼び、次の4つのケアを継続的かつ計画的に行うことが重要だとしています(厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」平成27年11月30日改正)。
ケア | 内容 |
|---|
セルフケア | 労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスを予防、軽減、対処する |
ラインによるケア | 管理監督者が、職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行う |
事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 産業医等が、心の健康づくり対策の提言と推進を担い、労働者と管理監督者を支援する |
事業場外資源によるケア | 事業場外の機関や専門家を活用し、その支援を受ける |
メンタルマネジメントは、4つのケアのうちセルフケアに近い考え方です。
メンタルヘルスマネジメントの目的
メンタルヘルスマネジメントの目的は、従業員のメンタルヘルス不調を予防・改善し、健康で安全に働ける環境を整えることです。
休職や離職を防ぐだけでなく、従業員の健康と安全を確保することで、企業の生産性向上にも貢献します。
取り組みの一部は法律上の義務です。ストレスチェックは、2015年から労働安全衛生法により事業者に実施が義務付けられています。労働者数50人未満の事業場は、当分の間努力義務とされていました(厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」2026年10月14日閲覧)。
メンタルマネジメントとの比較
メンタルマネジメントとメンタルヘルスマネジメントは、主体、主な内容、法令との関係の3点で比べられます。
項目 | メンタルマネジメント | メンタルヘルスマネジメント |
|---|
主体 | 従業員本人(会社はセルフケアを支援する) | 事業者(企業) |
目的 | 従業員の心の健康を保ち、活き活きと仕事に取り組める環境を作ること | 従業員のメンタルヘルス不調を予防・改善し、健康で安全に働ける環境を整えること |
主な内容 | セルフケアの促進、ストレスへの対処 | 4つのケア、ストレスチェック、職場環境の改善 |
法令との関係 | 厚生労働省の指針がセルフケアの必要性を示している | ストレスチェックは労働安全衛生法により実施が義務(労働者数50人未満の事業場は令和10年4月1日から義務化) |
企業は、メンタルヘルスマネジメントを適切に実施しながら、従業員のセルフケアを支えるメンタルマネジメントにも取り組むことが大切です。
メンタルマネジメントの具体的な方法
企業が従業員のメンタルマネジメントを支える主な方法は、ストレスチェックの実施、カウンセリングの導入、メンタルヘルス研修の実施の3つです。
ストレスチェックは事業者が実施する検査で、厚生労働省の資料は制度の目的に「労働者自身のストレスへの気づきを促す」ことを挙げています(厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」2026年10月14日閲覧)。
自社の状況や従業員のニーズに合わせて、組み合わせを決めます。
ストレスチェックの実施
ストレスチェックは、従業員のストレスの状態を把握するための検査です。事業者は、常時使用する労働者に対して1年以内ごとに1回、定期に検査を行います。
検査の結果、一定の要件に該当する労働者から申出があった場合、事業者は医師による面接指導を実施します(厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」)。
義務の範囲は、今後広がる予定です。労働者数50人未満の事業場は当分の間努力義務とされていましたが、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、令和10年(2028年)4月1日から義務化されます(厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」2026年10月14日閲覧)。
カウンセリングの導入
カウンセリングは、従業員が抱える悩みや不安を専門のカウンセラーに相談できる制度です。
仕事上の悩みだけでなく、プライベートな悩みも相談できます。早い段階での相談は、心の負担を軽くし、不調を予防する手段です。
オンラインカウンセリングであれば、場所や時間に縛られずに相談できます。従業員が安心して相談できる環境を整えることが重要です。
メンタルヘルス研修の実施
メンタルヘルス研修は、従業員がメンタルヘルスの知識やセルフケアの方法を学ぶ機会です。
ストレスへの対処方法や不調の兆候を学ぶと、自分の心の健康を管理しやすくなります。
管理職向けの研修も重要です。管理職がメンタルヘルスの知識を深めると、部下の不調に早く気づき、適切に対応しやすくなります。
不調のある部下の評価の扱いは「メンタル不調の社員の人事評価はどうする?対応方法を紹介」にまとめています。
企業でのメンタルマネジメントの取り組み事例
企業の取り組み事例の一つが、味の素株式会社が資料で紹介している職場復帰支援の「メンタルヘルス回復プログラム」です。
自社の施策を検討するときは、企業や公的機関が公開している資料で内容を確かめると、制度の設計を具体的に比べられます。
味の素株式会社のメンタルヘルス回復プログラム
味の素株式会社は、メンタルヘルス不調で休業した社員の職場復帰を支える「メンタルヘルス回復プログラム」を、2022年3月の資料で紹介しています。
プログラムの目的は、不調からの回復を促してイキイキと働ける状態へ戻すことと、再発予防です。対応方針には「早期発見・早期治療・早期休業」を掲げています。
休業と復帰の間に置かれているのが、治療の一環として出社する「治療出社」(試し出勤)の期間です。治療出社は、次の3つのクールに分かれています。
クール | 勤務 |
|---|
第1クール | 午前勤務 |
第2クール | 5時間勤務 |
第3クール | フルタイム |
出所:味の素株式会社「味の素流職場復帰支援『メンタルヘルス回復プログラム』」(2022年3月2日・厚生労働省「こころの耳」掲載)。
休職中の社員との面談の進め方は「休職中の面談が重要な理由とは?企業の対応と復職支援の秘訣」で扱っています。
メンタルマネジメントのメリット
メンタルマネジメントの主なメリットは、従業員のモチベーション向上、職場環境の改善、生産性の向上の3つです。
従業員の心の健康は、企業が長く成長を続けるための土台です。
従業員のモチベーション向上
メンタルマネジメントで従業員のストレスが軽くなると、仕事に対するモチベーションを保ちやすくなります。
仕事への意欲が高まると、新しいアイデアを出す、難しい課題に挑戦するといった行動も生まれやすくなります。
職場環境の改善
職場環境の改善も、メンタルマネジメントのメリットです。
従業員同士のコミュニケーションが円滑になると、チームで仕事を進めやすくなります。上司と部下の信頼関係も、相談しやすい職場の条件です。
安心して働ける環境は、企業の魅力を高め、人材の確保にもつながります。
生産性の向上
メンタルマネジメントで従業員の心の健康が保たれると、集中して質の高い仕事に取り組みやすくなります。
ミスの減少や業務効率の向上も、期待できる効果です。個人の状態が安定することで、企業全体の生産性向上につながります。
メンタルマネジメントの今後と企業の取り組み方
企業側の取り組みでは、ストレスチェックの義務の範囲が広がり、規模の小さい事業場も対象になります。
制度の変更に合わせて、自社の体制を見直す時期です。
小規模事業場へのストレスチェックの義務化
労働者数50人未満の事業場でも、令和10年4月1日からストレスチェックの実施が義務になります(厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」2026年10月14日閲覧)。
厚生労働省は、小規模事業場に即した実施体制と実施方法をまとめた「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表しています。
対象になる事業場にとって、施行日までの期間は実施体制と実施方法を決める準備期間です。
企業としての取り組み方
企業は、従業員のメンタルヘルスを守るために、メンタルマネジメントへ継続して取り組むことが求められます。
メンタルヘルス対策は、生産性の向上や離職の防止につながる取り組みです。従業員が安心して働ける環境を提供することは、企業の社会的責任でもあります。
制度を整えるだけでなく、従業員が実際に使える状態になっているかを定期的に確かめることが大切です。
メンタルマネジメントを進めるうえでの要点
メンタルマネジメントは、従業員が自分のストレスに気づき、対処できるように支える取り組みです。企業が組織として行うメンタルヘルスマネジメントと組み合わせて進めます。
企業が支える方法は、ストレスチェック、カウンセリング、研修の3つが中心です。ストレスチェックの義務は、令和10年4月1日から労働者数50人未満の事業場にも広がります。
自社の制度が従業員のセルフケアを支えられているかを、今の体制から点検してみてください。