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近年、パーパスを軸にした経営や採用手法が注目されています。特に、採用に苦戦する企業や成長の鈍化に頭を悩ませている企業は、パーパスの策定・見直しに力を入れましょう。パーパスを導入する目的やメリット、組織に浸透させるまでの手順を詳しく解説します。
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パーパス(Purpose)とは?
(出典)https://www.pexels.com/
社会情勢の不安定化や人々の価値観の多様化が進む中、自社の存在意義や社会的価値に重きを置いた「パーパス経営」が企業成長の鍵を握ります。そもそも、パーパスにはどのような意味があるのでしょうか?
目的や存在意義
パーパス(Purpose)には本来、目的や意図、理由という意味がありますが、会社経営やブランディングでは、存在意義や志と訳されます。一言でいえば、「組織は何のために存在するのか」という問いの答えです。パーパスには以下のような特徴があります。
- 組織の歴史や価値観が反映されている(独自性)
- 社会貢献や社会とのつながりが強く意識されている(社会性)
パーパスは、自社の強みと社会性の掛け合わせと定義できます。利益の根源となる強みがあっても、社会性が見いだせなければパーパスとはいえません。
ビジョンやミッションとの違いは?
パーパスとよく似た言葉に、ビジョンやミッションがあります。どれも会社経営には欠かせないキーワードですが、その本質は異なります。
- パーパス(Purpose):自社の社会的な存在意義
- ミッション(Mission):自社が果たすべき使命
- ビジョン(Vision):自社が目指すべき姿
パーパスは企業の根本的な価値観であり、企業活動の中心に位置付けられるものです。概念体系でいうと、「Why(自社はなぜ存在するのか)」に該当します。
ミッションは、パーパスを実現するための手段です。企業が日々果たすべき使命であり、「What(自社は何をすべきか)」を示します。
また、パーパスは「今どうあるべきか」を問うのに対し、ビジョンは「将来どうなりたいか」という未来への構想です。
パーパスが求められている背景
(出典)https://unsplash.com/
大企業や上場企業を中心に、パーパスを社内外に発信する企業が増えています。企業が社会的意義を強く意識するようになった背景・理由には何があるのでしょうか?
DX化の推進
経済産業省では「デジタルガバナンス・コード2.0」を掲げ、産業界のDX化を推進しています。DX化とはIT技術を効果的に活用し、社会や組織の仕組みを変革させていくことです。
グローバル市場で競争優位性を確立するには、DX化による生産性の向上が欠かせません。消費者ニーズの多様化や少子高齢化が加速する中、組織や働き方を抜本的に見直さない企業は生き残れないといっても過言ではないでしょう。
DX化で組織を変革するためには、社会やステークホルダーから何を求められているのか、すなわち「パーパスの見直し」が欠かせません。
多様的な組織(ダイバーシティ)への対応
経済成長が鈍化した昨今、日本では終身雇用が崩れつつあります。グローバル化や人材の多様化などが進む中で、「暗黙の了解」や「空気を読んで行動する」といった組織風土も通用しなくなってきているのが実情です。
ダイバーシティとは、人間の多様性を意味する言葉です。多様な人々が共に組織をつくり上げていくには、企業自らが存在意義を明確にし、行動指針を示す必要があります。
パーパスによって一体感が醸成されると、従業員同士の絆が深まり、革新や変化が起こりやすくなります。
エンジニアの働き方の変化
深刻な人材不足に直面しているIT業界は、売り手市場です。企業間での人材獲得競争に勝つには、エンジニアの共感を得られるようなパーパスを掲げなければなりません(パーパス採用)。
とりわけミレニアル世代・Z世代は、「自分をどう社会に役立てられるか」を重視する傾向があります。パーパスを軸に事業に取り組んでいる企業ほど、自己成長を意識する若い世代の支持が得られやすいのです。
近年は、特定の会社の正社員として働くのではなく、複数の本業を同時並行で行う副業のエンジニアが増えてきました。働き方が多様化する中、パーパスに基づいたニューノーマルな組織づくり・環境づくりが求められています。
パーパス経営・採用活動のメリット
(出典)https://www.pexels.com/
経営から採用に至るまで、パーパスは企業活動のあらゆる場面で取り入れられています。パーパス経営・パーパス採用を行うと、企業や従業員はどのようなメリットを享受できるのでしょうか?
意思決定の迅速化
会社の姿は、正しい価値判断と素早い意思決定によって形作られるといっても過言ではありません。組織において、パーパスは羅針盤のような役割を果たします。
パーパスが浸透している企業では、従業員一人一人の意思決定が迅速化するのがメリットです。行動に移すまでの時間が短縮され、結果として生産性の向上につながります。
逆に、パーパスが組織内で共有されていない場合、意思決定に時間がかかったり、誤った判断をしてしまったりする恐れがあるでしょう。市場変化への対応が遅れれば、企業としての存続も危ぶまれます。
イノベーションが生まれやすい
パーパス経営は、イノベーションの創出を促します。イノベーションとは、新たな技術や考え方によって新たな価値を生み出し、社会全体に革新をもたらすことです。
日本は市場が縮小傾向にあるため、現状のビジネスモデルに甘んじる企業は遅かれ早かれ淘汰される可能性があります。顧客ニーズを捉えたイノベーションこそが、企業に持続的な成長をもたらすといってよいでしょう。
経営層は明確なパーパスの下で一貫性のある戦略が策定できます。パーパスに共感した従業員がそれぞれの能力やクリエイティビティを自発的に発揮するため、これまでになかった価値が創出されやすくなります。
エンゲージメントの向上
パーパスの明確化により、従業員のエンゲージメントや愛社精神が向上します。生産性の向上や離職率の低下、従業員間の結束強化などがもたらされ、より強靱な組織へと変化を遂げていくでしょう。
多くの従業員は、日々の業務を通じて社会に貢献したいという思いを抱いています。いくら待遇面で優遇されていても、やりがいや自己成長、社会的価値が感じられなければ、モチベーションは上がらないのが現実です。
企業のパーパスと個人のパーパスが重なっていれば、従業員は熱意と誇りを持って働けます。
パーパスを導入すべき企業
(出典)https://unsplash.com/
企業の持続的な成長にはパーパスが不可欠です。日本では大企業が次々とパーパス経営を実施していますが、中小企業でもパーパス導入の重要性が指摘されています。パーパスを取り入れるべき企業にはどのような特徴があるのでしょうか?
採用活動に苦戦する企業
優秀な人材が獲得できなかったり、採用のミスマッチが起こったりして採用活動に苦戦する企業は、自社の求める人物像や価値観、魅力などを求職者に伝えきれていない可能性があります。
現在の転職市場は売り手が優勢です。求職者に選ばれる企業になるには、自社の存在意義をしっかりと言語化し、強み・魅力をアピールしていく必要があるでしょう。
近年は、仕事内容や待遇面だけでなく、企業の社会貢献度や企業の存在意義と自分の価値観との一致度を重視する人が増えています。
組織・人事コンサルティング「ディスコ」(東京都)は、就活を終えた学生を対象に「就職先企業を決めた理由」の調査を行いました。2021年卒では、「社会貢献度が高い」が最多の30.0%を占めています。
出典:就活生の企業選びと SDGs に関する調査|株式会社ディスコ
スタートアップ企業
スタートアップ企業は、大企業では着手できないような独自の技術やビジネスモデルに挑戦する傾向があります。
組織と個人の力を最大限に発揮して新たな価値を生み出すには、パーパスを明確化した上で、「自分たちに何ができるのか」「社会が何を求めているのか」を深く考えなければなりません。
パーパス経営に真摯に取り組む企業は、ステークホルダーからの共感やサポートが得られやすく、資金調達の面でも有利になるでしょう。
スタートアップ企業は、大企業に比べて個人の裁量権が大きいのが特徴です。パーパスを導入すれば、一人一人の意思決定が迅速化する上、行動のブレがなくなります。
社会的責任を重視する企業
SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが加速する中、自社の利益だけを追求するのではなく、企業としての社会的責任を重視する企業が増えています。
特に、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)に配慮する企業は、消費者やステークホルダーから高く評価される傾向があります。
SDGsに貢献したい企業や社会的責任を果たしたい企業にとって、パーパスの導入は欠かせません。「自社らしさを社会問題の解決にどう生かすか」「従業員の賛同は得られるか」に重きを置きましょう。
パーパスを実装する手順
(出典)https://unsplash.com/
経営理念やビジョンを掲げていても、「自社はなんのために存在するのか」という問いに明確に答えられる企業はそう多くはありません。パーパスを一から定義し、日常業務に浸透させるまでの手順とポイントを解説します。
【ステップ1】ステークホルダーの分析と調査を行う
最初のステップは、ステークホルダーの分析・調査です。パーパスは、自社のステークホルダーに価値を提供できるものでなければなりません。従業員・顧客・株主・取引先の賛同を得られなければ、パーパスは実現しないことを肝に銘じましょう。
ステークホルダーの代表的な調査方法には、アンケート・ヒアリング・オブザベーション(行動観察調査)・他社比較などがあります。
ステークホルダーを分析した後は、自社分析を行いましょう。自社の強み・弱みを明確化するなら「SWOT分析」、経営環境を分析するなら「3C分析」が活用できます。
その他にも、「コンピテンシー分析」や「ケイパビリティ分析」といったさまざまなフレームワークがあるため、目的ごとに複数を組み合わせることをおすすめします。
【ステップ2】言語化して周知する
次の作業は、自社の存在意義を言語化することです。パーパスを言語化したものは、「パーパスステートメント」と呼ばれています。
最適な言葉が思い浮かばないときは、社内からパーパス案を募るのも一つの手です。会社が歩んできた歴史や創業時の企業理念がヒントになるでしょう。
パーパスは社内に浸透してこそ真価を発揮します。言語化した後は、社内報・定例ミーティング・社内SNSなどを活用して、社内周知を徹底しましょう。単にパーパスを伝えるだけでなく、パーパスを決めた背景や意図も共有します。
【ステップ3】経営計画・事業に落とし込む
パーパスを実行するには、経営計画やミッションへの反映が欠かせません。絵空事で終わらないように、経営層やマネジメント層は、パーパスに基づいた中長期的な事業計画および数値目標を策定します。
パーパスに合った組織を目指すため、採用手法や人事評価制度、社内システムも見直す必要があります。パーパスから逸脱した既存の仕組みは一から作り直すことを検討しましょう。
パーパスの実行に当たっては、経営企画部門に任せっきりにせずに、経営者自らが運営する姿勢を見せることが肝要です。
【ステップ4】日常業務に浸透させる
中長期的な事業計画を策定した後は、従業員の日常業務にパーパスを浸透させます。経営層による一方的な発信では意味がないため、どうすれば当事者意識を持ってもらえるかを考えなければなりません。
多くの従業員は、昇給や評価に敏感です。人事の定性評価にパーパスを軸とした評価を反映させれば、従業員の行動はより自律的になります。
パーパスの実行後は、各自の取り組みを評価する機会を設けましょう。パーパスの成果を社内報で共有したり、ロールモデルを取り上げたりすることで、パーパスへの意識がグンと高まります。
パーパスを策定するポイント
(出典)https://unsplash.com/
パーパス経営に初めて着手する企業の中には、パーパスの策定や実践に苦戦を強いられているところが少なくないようです。ありきたりなパーパスや捉えどころがないパーパスでは、周囲からの支持は得られません。
メッセージ性が明確で、かつ従業員のよりどころとなるようなパーパスはどのように描けばよいのでしょうか?
自社の強みや独自性を考慮する
パーパスを構成する要素は、自社の「独自性」と「社会性」です。社会への貢献度を示すだけでは他社と内容が被ってしまうため、自社の強みや独自性を掛け合わせる必要があります。
まずは、自社分析によって他社にない強みや優位性を洗い出すところからスタートしましょう。自社に組み込まれた「DNA」を丁寧に抽出するイメージです。
パーパスのために取り組んだことのない事業やビジネスを構築する必要はありません。そもそもパーパスは、ステークホルダーの共感が得られることが前提です。既存の事業やビジネスに結び付かないパーパスを掲げても、従業員は自分ごととして捉えられません。
分かりやすく明確に
大半の企業は、ホームページ上でパーパスステイトメントを公開しています。パーパスを言語化する際は、多くの人の目に触れることを考慮しましょう。
英語・日本語のいずれを使っても構いませんが、冗長で複雑な表現は避け、シンプルで分かりやすい言葉を選ぶのがポイントです。よいパーパスメントの条件としては、以下のようなものが挙げられます。
- メッセージが明確である
- シンプルで覚えやすい
- ありふれた言葉が並んでいない
- 従業員のやる気や労働意欲が引き出せる
社会課題を解決するものを扱う
パーパスは、社会的課題に対する自社の取り組みを社内外に示すものです。ミッションやビジョンと異なり、社会とのつながりを何らかの形で盛り込む必要があります。
利益だけを追求してきた企業にとって、社会にどう貢献できるかという問いに答えるのは難しいかもしれません。しかし、これからは「社会をよくする企業」が生き残る時代です。
少子化問題や環境問題、労働問題など、現代社会が抱える課題に目を向けてみると自社がやるべきことが見えてくるでしょう。
現場の意見も反映すること
よいパーパスは従業員のモチベーションを向上させます。経営層の意図だけでパーパスが策定された場合、従業員の思いが取り残されることになります。社会からの賞賛やリスペクトは得られても、そこで働く従業員はどこか人ごとのように感じるかもしれません。
パーパスを掲げる上では、企業と個人の共通項を見いだすことが重要です。従業員からパーパス案を募ったり、ヒアリングの機会を設けたりして、現場をしっかりと巻き込んでいく必要があります。
パーパス経営の導入事例
(出典)https://www.pexels.com/
日本では、大手企業や上場企業がパーパス経営を展開しています。それぞれのパーパスにはどのような思いが込められているのでしょうか?パーパスの導入や見直しを検討している企業は、各社のパーパスを参考にしましょう。
ソニー
ソニーでは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを掲げています。ソニーグループ会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏(2023年4月1日から会長CEO)を中心にパーパスの見直しが進められ、2019年1月に発表されました。
ソニーは全世界に拠点を持つグローバル企業です。自立した多様な個を事業の主軸に据え、個の力を最大限に生かすために企業は何をすべきかを考え続けてきました。
パーパスは、「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」という四つの価値観に支えられています。
出典:ソニーグループポータル | Sony's Purpose & Values
日産自動車
日産自動車のパーパスは、「人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける」です。
自動車業界は今、100年に一度の変革期を迎えているとされます。「他がやらぬことをやる」の精神でイノベーションを追求してきた日産自動車ですが、自分たちの強みを再認識すると同時に、「人々の生活を豊かにすること」に軸足を置く方向です。
パーパスに基づいた長期ビジョンは、2021年11月に発表された「Nissan Ambition 2030」に示されています。中でも力を入れているのが、電動車(EV)ラインアップの拡充で、2026年までの投資額は2兆円に上る見込みです。
出典:パーパス・ミッション・DNA | 会社情報 | 日産自動車企業情報サイト
出典:長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」 | 会社情報 | 日産自動車企業情報サイト
花王
花王では、2010年より「花王国際こども環境絵画コンテスト」を開催し、子どもたちの声に耳を傾けてきました。
子どもたちが願う「すべてのいのちが輝く共生の世界」をかなえるため、「豊かな共生世界の実現(To realize a Kirei World in which all life lives in harmony)」をパーパスに掲げています。
花王のパーパスは、社会課題を解決するための「未来への5つの約束」とひもづいているのが特徴です。CO2削減や再資源化、違いに寄り添った精確なライフケアなどに焦点を当て、豊かな共生世界の実現に貢献していきます。
パーパス経営で進化を促す
(出典)https://www.pexels.com/
多くの企業がパーパス経営にかじを切る理由には、DX化の推進や価値観の多様化、サステナビリティの浸透などが挙げられます。社会的課題が深刻化する中、「課題解決に貢献できる企業かどうか」という新たな評価基準が付け加えられたと言えるでしょう。
組織においては、従業員のエンゲージメント向上やイノベーションの創出などが期待できます。ステークホルダーからの支持が得られれば、企業はさらに大きく成長するでしょう。先行きが見えないVUCA時代、企業が生き残る道はパーパス経営にあると言えそうです。
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