SWOT分析は内部・外部とプラス・マイナスの2軸で組む
SWOT分析は、Strengths(強み)・Weaknesses(弱み)・Opportunities(機会)・Threats(脅威)の4つを、内部要因と外部要因、プラス要因とマイナス要因の2軸で並べる分析の枠組みです。エンジニア採用に当てはめると、内部要因は自社で変えられること、外部要因は採用市場や同業の動きのように自社では変えられないことを指します。
| プラス要因 | マイナス要因 |
|---|
内部要因(自社で変えられる) | 強み:候補者に選ばれる理由になる自社の事実(技術スタック、開発の進め方、技術発信など) | 弱み:候補者が見送る理由になる自社の事実(給与レンジ、リモートの条件が求人から読めないなど) |
外部要因(自社で変えられない) | 機会:採用の追い風になる市場の変化(仕事を探すエンジニアの増加など) | 脅威:採用を難しくする市場の変化(同業の採用拡大、高い求人倍率など) |
内部と外部の区別を誤ると、施策が出てきません。エンジニアの離職やモチベーションの低下は、自社の制度や職場の運営で変えられるので内部要因の弱みに入ります。一方、エンジニアの求人倍率の高さは自社では動かせないので、外部要因の脅威に入ります。
採用戦略の中でSWOT分析が受け持つ範囲
採用戦略の中でSWOT分析が受け持つのは、自社がどこで選ばれ、どこで見送られているかの現状把握です。誰を採用するか(ペルソナ)、何人をいつまでに採用するか(採用計画)、どの経路で候補者に会うか(チャネル)は、SWOT分析の結果を受けて決める別の工程になります。
採用戦略の全体の組み立てと、3C分析・4C分析・TMP(Targeting・Messaging・Processing)設計などの枠組みの使い分けは、採用戦略の立て方とフレームワークに入れる数字で扱っています。4つの欄を埋める材料は、外部と内部で別物です。次の2つの章で分けて書きます。
機会と脅威の欄は職業別・産業別の公的統計で埋める
エンジニア採用の機会と脅威を埋める材料は、厚生労働省の職業別の求人倍率、産業別の人手不足感、入職と離職の統計です。2026年8月の情報処理・通信技術者の有効求人倍率は1.48倍で、職業計の1.17倍を上回りました(厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」参考統計表・常用(パートタイムを除く)・原数値)。
仕事を探すエンジニア1人に対して求人が約1.5件ある状態で、職業計(1.17倍)より求人どうしの競合が多い水準です。
欄 | 統計 | 値 | 欄への書き方 |
|---|
脅威 | 情報処理・通信技術者の有効求人倍率(2026年8月) | 1.48倍(職業計1.17倍) | 求職者1人に求人が約1.5件ある |
機会 | 情報処理・通信技術者の有効求職者数の前年同月比(2026年8月) | 5.8%増 | 仕事を探すエンジニアは前年より増えた |
機会 | 情報処理・通信技術者の有効求人倍率の前年同月差(2026年8月) | 0.10ポイント低下 | 求人どうしの競合は前年より和らいだ |
脅威 | 情報通信業の正社員等労働者過不足判断D.I.(2026年8月1日現在) | +52(調査産業計+47) | 同業の多くが人手不足を感じている |
脅威 | 情報通信業の正社員等雇用判断D.I.(2026年10〜12月期の見込) | +18(調査産業計+8) | 同業は正社員を増やす見込み |
脅威 | 情報通信業の入職超過率(2025年) | 3.2ポイント(産業計1.0ポイント) | 同業は人員を増やしている |
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年8月分)」、厚生労働省「労働経済動向調査(令和8年8月)の概況」、厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概要」。
統計は水準と前年からの変化を分けて書く
機会と脅威の欄は、同じ統計でも水準と変化の向きで入る欄が分かれます。情報処理・通信技術者の有効求人倍率1.48倍は水準として脅威ですが、前年同月から0.10ポイント下がり、有効求職者数は5.8%増えたので、変化の向きは機会に入ります。
人手不足感も同じです。情報通信業の正社員等労働者過不足判断D.I.は、2026年2月の+62から5月+54、8月+52と2回続けて下がりました。水準だけを見て脅威の欄を重く書くと、採用の難しさを実態より大きく見積もる結果になりかねません。
同業の中途採用の強化は脅威の欄に入れる
厚生労働省の労働経済動向調査(令和8年8月)では、情報通信業で人手が足りない部門がある事業所のうち、2026年4〜6月期に何らかの対応をした事業所の71%が「中途採用の開始・拡大・強化」を挙げました。
正社員等雇用判断D.I.の10〜12月期の見込みでも、情報通信業の+18は産業別で最も高い値です。エンジニアを探す同業が増える前提で、脅威の欄には「同業の中途採用の強化」を書き、選考の速さや提示条件で負けない手当てを施策の候補にします。
強みと弱みの欄は自社の求人票とスカウトの事実で埋める
エンジニア採用の強みと弱みは、「技術力が高い」「風通しが良い」といった形容ではなく、候補者が求人票や面談で確かめられる事実で書きます。求人票の文字数が近いものどうしで比べると、技術スタック・開発環境を書いた正社員求人の閲覧あたり応募率は、書いていない求人の1.41倍でした(Offers(株式会社overflow)調べ・正社員求人 n=2,633・2026年9月時点)。
求人票に書いた項目 | 書いていない求人と比べた閲覧あたり応募率 |
|---|
技術スタック・開発環境 | 1.41倍 |
カルチャー・バリュー・ミッション | 1.29倍 |
生成AI・AIツールの活用 | 1.17倍 |
研修・勉強会・学習支援 | 0.85倍 |
使っている言語やクラウド、開発の進め方は、強みの欄の第一候補です。研修や勉強会の記載は応募率を押し上げる方向に出ていないので、育成の仕組みは強みの欄に書く前に、候補者から見て具体的な中身があるかを確かめます。
求人票から読めない条件は弱みとして書く
候補者が判断に使う条件のうち、求人票から読めないものは弱みの欄に入ります。公開中の正社員求人でリモートワークの中身を文章で説明しているものは7.7%で、選考プロセス(93.8%)や給与レンジ(98.2%)と比べて書き方が分かれる項目です(Offers(株式会社overflow)調べ・公開中の正社員求人 n=990・2026年9月時点)。
給与レンジは、書くかどうかより幅の取り方で差が出ます。下限に対する上限の幅が50〜100%の求人の閲覧あたり応募率は0.154%で、50%未満(0.107%)と100%以上(0.100%)を上回りました(Offers(株式会社overflow)調べ・年収の下限と上限を記載した正社員求人 n=3,236・2026年9月時点)。
スカウトの数字は自社の訴求が届いているかの物差しになる
スカウトの開封率と返信率は、強みが候補者に届いているかを確かめる数字です。正社員求人のスカウトは、送信を100とすると開封59.7%、返信6.2%、面談2.9%で、返信した候補者の46.1%が面談に進みました(Offers(株式会社overflow)調べ・正社員求人のスカウト n=31,000・2025年3月〜2026年2月送信)。
自社の返信率がこの値を下回るなら、強みの欄に書いた事実がスカウトの文面に入っていないか、届ける相手がずれていると読めます。
自社の強みと弱みを外から見た評価で確かめるなら、エンジニア採用力チェックが使えます。企業URLを入れると、AIが公開情報を技術ブランド発信力・技術環境の透明性・採用情報の充実度・雇用条件の競争力・採用活動の積極性の5指標24項目で診断し、1営業日以内にレポートが届く無料の診断です。
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クロスSWOTで4つの組み合わせから採用施策を出す
クロスSWOTは、強み・弱みと機会・脅威を掛け合わせ、SO(強み×機会)・WO(弱み×機会)・ST(強み×脅威)・WT(弱み×脅威)の4つの方向から施策を出す方法です。4つの欄を並べただけでは施策は決まらないので、欄を埋めたら組み合わせまで進めます。
組み合わせ | 考える問い | エンジニア採用の施策の例 |
|---|
SO(強み×機会) | 強みを、増えている求職者にどう届けるか | 技術スタックと開発の進め方を求人票の冒頭に書き、スカウトの1通目にも同じ事実を入れる |
WO(弱み×機会) | 機会を逃さないために弱みをどう補うか | リモートの頻度と出社の条件を文章で書き足す。給与レンジの幅を見直す |
ST(強み×脅威) | 同業との競合を強みでどうしのぐか | 現場のエンジニアが技術面接とカジュアル面談を受け持ち、技術の話で候補者の関心を引き留める |
WT(弱み×脅威) | 弱みが致命傷にならないようにどう守るか | 採用で埋まりにくい技術は育成計画に回し、採用の必須要件を絞る |
施策には期日と優先順位を付ける
クロスSWOTで出した施策は、採用目標の期日と、選考のどこで候補者が離れているかで優先順位を付けます。SWOT分析は現状を並べる枠組みなので、どの施策から手を付けるかまでは表から決まりません。
応募が少ないならSOとWOの求人票の手直しから、面接の後で辞退が多いならSTの選考の進め方から手を付けます。選考の段階ごとの通過率の測り方は、中途採用の歩留まりの計算式と基準値の置き方にまとめています。
施策を採用人数・時期・予算の計画に落とすときのたたき台は、Offers のお役立ち資料にある採用計画テンプレート(採用戦略の立案から予算配分までを数値で組むExcel)です。
採用計画テンプレートをお役立ち資料からダウンロードする
SaaS企業のバックエンドエンジニア採用の記入例
従業員100名規模のSaaS企業が、バックエンドエンジニアを半年で2名中途採用する想定で、4つの欄を埋めた例です。企業と数字の一部は説明のための想定で、外部要因の欄だけは前の章の公的統計をそのまま使っています。
欄 | 書いた内容 |
|---|
強み | TypeScript とAWSで開発し、求人票に技術スタックと開発フローを書いている。テックブログを月1本出している |
弱み | 給与レンジの幅が下限の30%と狭い。週何日リモートかを求人票に書いていない。決済まわりの設計を1人しか担えない |
機会 | 情報処理・通信技術者の有効求職者数が前年同月比5.8%増。有効求人倍率も前年同月から0.10ポイント低下 |
脅威 | 有効求人倍率1.48倍と職業計を上回る。情報通信業の雇用判断D.I.の見込みは+18で、同業も正社員を増やす |
この4つを掛け合わせて出した施策は、次の4つです。
- SO:技術スタックと開発フローを、スカウトの1通目の冒頭に入れる
- WO:給与レンジの幅を下限の50〜100%に広げ、リモートの日数を求人票に書く
- ST:技術面接を現場のエンジニアが受け持ち、選考を2週間以内に終える
- WT:決済まわりの設計は採用だけに頼らず、社内の2人目を育てる計画を立てる
WTのように、採用だけで埋めにくい弱みは、次の章の育成計画へ渡します。
育成ではエンジニア本人が自分のSWOT分析を書く
育成でのSWOT分析は、エンジニア本人が自分の強み・弱みと、社内外の機会・脅威を書き、上長との1on1で育成の目標に落とすために使います。本人が書く利点は、どの技術を伸ばすか、どの経験が足りないかを自分の言葉で持てることです。
欄 | 本人が書く内容の例 |
|---|
強み | 得意な言語や設計の経験、レビューで任されている領域 |
弱み | レビューで指摘が繰り返される領域、触れたことのない技術 |
機会 | 社内の新しいプロジェクト、使う技術の切り替え、社内の勉強会 |
脅威 | 担当している技術の需要の変化、事業の方針転換 |
個人の表では、社内の勉強会や新しいプロジェクトも本人には変えられない外部要因です。組織の表と個人の表で内部と外部の範囲が変わるので、誰の視点の表かを最初に決めてから書きます。
組織の弱みを、採用で埋めるか育成で埋めるかに分ける
組織のSWOT分析で弱みに出た技術や経験は、期日までに必要かどうかと、社内に近い経験の人がいるかどうかで、採用で埋めるか育成で埋めるかを分けます。期日が近く、社内に近い経験の人がいなければ採用、期日に余裕があり、近い経験の人がいれば育成が候補です。
デジタル人材は採用市場でも足りていません。IPAの「DX動向2025」では、日本企業の85.1%でDXを推進する人材が不足しています(IPA「DX動向2025-AI時代のデジタル人材育成」・2025年10月9日公開)。多くの企業が同じ人材を探す前提に立てば、採用と育成の両方の計画が必要です。
育成計画の立て方はエンジニアの人材育成の計画の立て方と手法で扱っています。
採用した人や育てた人が辞めてしまうと、弱みの欄は埋まりません。入社後の定着の設計は、Offers のお役立ち資料「エンジニアが辞めない組織のつくり方」にまとめています。
エンジニアが辞めない組織のつくり方をお役立ち資料からダウンロードする
弱みと脅威はコードレビューや評価の記録で補う
本人が書くSWOT分析は、弱みと脅威が軽く書かれやすいので、コードレビューの記録や360度フィードバック、評価面談の記録で補います。
定性的な項目と定量的な項目を分けて評価の基準を決めておくのが、上長と本人が同じ材料で表を読むための前提です。
SWOT分析と組み合わせて使う枠組み
SWOT分析は現状を並べることに向いていて、候補者や競合の比べ方、施策の優先順位、育成の効果の測り方は、ほかの枠組みで補います。
枠組み | 分かること | SWOT分析とのつなぎ方 |
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3C分析 | 候補者・採用で競う他社・自社の位置関係 | 3C分析で候補者と競合を調べ、その結果を機会・脅威と強み・弱みの欄に入れる |
歩留まり(ファネル)分析 | 選考の段階ごとの通過率 | クロスSWOTで出した施策の優先順位を決める |
カークパトリックモデル | 研修の効果を4つのレベルで評価する | 育成計画の効果を測る |
3C分析の進め方は採用の3C分析の手順で扱っています。
カークパトリックモデルは、研修や育成の取り組みを、反応(Reaction)・学習(Learning)・行動(Behavior)・成果(Results)の4つのレベルで評価する枠組みです。提供元の Kirkpatrick Partners は、組織に起きてほしい成果(Level 4)から設計を始めることを重視しています(Kirkpatrick Partners「The Kirkpatrick Model」)。
育成のSWOT分析で決めた目標を行動と成果のレベルで測った結果が、次の年の表で強みの欄に加わる材料です。
エンジニア採用のSWOT分析の要点
4つの欄を統計と自社の事実で埋め、クロスSWOTで施策に落とし、採用で埋まらない弱みを育成計画へ渡すところまでを、1回の分析として回します。
- 内部要因は自社で変えられること、外部要因は変えられないことで分ける。離職やモチベーションは内部要因の弱みに入る
- 機会と脅威は、情報処理・通信技術者の有効求人倍率(2026年8月 1.48倍)や情報通信業の人手不足感など、公的統計の水準と変化の向きで書く
- 強みと弱みは、技術スタックの記載、リモートの説明、給与レンジの幅、スカウトの返信率など、候補者が確かめられる事実で書く
- クロスSWOTの4つの組み合わせで施策を出し、採用目標の期日と選考の通過率で優先順位を付ける
- 育成では本人が自分のSWOT分析を書き、組織の弱みは期日と社内の経験者の有無で採用と育成に振り分ける